一宇いちう)” の例文
躑躅つつじさき城館しろたちのうちに一宇いちう伽藍がらんがある。毘沙門堂びしゃもんどうといって、信玄入道の禅室でもあり、政務所でもあり、時には軍議の場所ともなった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとり、唯、単に、一宇いちうの門のみ、生首にひともさで、さびしく暗かりしを、怪しといふ者候ひしが、さる人は皆人の心も、ことのやうをも知らざるにて候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さらにそれから紋兵衛の駕籠は根岸の方へ進んで行き、夜も明方と思われる頃、一宇いちうの立派な屋敷へ着いた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると黄ばんだ麦の向うに羅馬ロオマカトリツク教の伽藍がらん一宇いちう、いつの間にか円屋根まるやねを現し出した。……
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
泰西たいせいの都市にありては一樹の古木一宇いちうの堂舎といへども、なほ民族過去の光栄を表現すべき貴重なる宝物ほうもつとして尊敬せらるるは、既に幾多漫遊者の見知けんちする処ならずや。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むこうの山の頂きに何かの建物があるのを見つけて、ともかくもそこまで辿たどり着くと、そこらは人跡じんせきの絶えたところで、いつの代に建てたか判らないような、くずれかかった一宇いちうの古い廟がありました。
イタズリ(イタンポ) 阿波一宇いちうその他
玉造たまつくりの一角。——ここも変らない新開地的な色彩の中に、難波津なにわつのむかしのまま、こんもりと青葉の樹立こだちに抱えられた一宇いちうどう風雅ふうがな人の住居すまいあとがある。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泰西の都市にありては一樹の古木一宇いちうの堂舎といへども、なほ民族過去の光栄を表現すべき貴重なる宝物ほうもつとして尊敬せらるるは、既に幾多漫遊者の見知けんちするところならずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
元禄げんろくころ陸奥千鳥むつちどりには——木川村きがわむら入口いりぐち鐙摺あぶみずりいはあり、一騎立いつきだち細道ほそみちなり、すこきてみぎかたてらあり、小高こだかところだう一宇いちう次信つぎのぶ忠信たゞのぶ両妻りやうさい軍立いくさだち姿すがたにて相双あひならつ。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
植え込みがしげく繁っていて、一宇いちうちんが立っている。時刻は夜で星がある。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じゃくとしたいわあな、その前の荒れ果てた、一宇いちうの堂、昔ながらである、何もかも、ここだけは変っていない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元禄の頃の陸奥むつ千鳥には——木川村入口に鐙摺あぶみずりの岩あり、一騎だちの細道なり、少しきて右のかたに寺あり、小高き所、堂一宇いちう、継信、忠信の両妻、軍立いくさだちの姿にて相双あいならび立つ。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岩松の祖、新田義重をまつってある菩提寺ぼだいじである。また明王院と号する一宇いちうの不動堂もある。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加州かしう金沢市古寺町ふるでらまち両隣りやうどなり一宇いちう大廈たいかは、松山なにがしが、英、漢、数学の塾舎となれり。もと旗野はたのへりし千石取せんごくどりやかたにして、邸内に三件の不思議あり、血天井ちてんじよう不開室あかずのま、庭の竹藪これなり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大吉寺は大吉堂ともいい、一宇いちうの堂と、れはてた僧房一棟ひとむねしかない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一宇いちう万生のすがたに復そうとしているところです。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)