魅力みりょく)” の例文
子路という特殊な個人に在ってはかえって魅力みりょくとなり得るものが、他の門生一般いっぱんについてはおおむね害となることが多いからである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そんな旅館を一代が知っていたのかと寺田はふと嫉妬しっとの血を燃やしたが、しかしそんな瞬間の想いは一代の魅力みりょくですぐ消えてしまった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
図星ずぼしだが、ストライキも前ほど魅力みりょくがなくなったね。今日ストライキで賃金をり上げる。すると明日は物価の方が、賃金値上高を
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
思索しさくの中から生まれた、新しい知恵の言葉があり、それが次郎をして同じ講義を何度きいてもあかせない魅力みりょくになっていたのであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
名は百合子ゆりこと云った。歩く時は、いつも男の肩に寄りっていなければ気が済まないらしく、それがこの少女の魅力みりょくでもあった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼女の顔は、昨日より一層魅力みりょくが増して見えた。目鼻だちが何から何まで、実にほっそりとみがかれて、じつに聡明そうめいで実に可愛かわいらしかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
このくらい秘密の魅力みりょくに富んだ、つかまえ所のない問題はない。保吉は死を考える度に、ある日回向院えこういん境内けいだいに見かけた二匹の犬を思い出した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも、この研究けんきゅうは人があまりやっていないので、いくらでも研究することがのこされているのが、若いぼくには、たまらない魅力みりょくだったのだ。
夫人と会って話している間、信一郎はそのキビ/\した表情や、優しいけれども、のしかゝって来るような言葉に、云い知れぬ魅力みりょくをさえ感じていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それらの一つ一つが、半日立ちつくして見物けんぶつしていても、けっしてあかせないだけの魅力みりょくを持っていたのである。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
○彼女に取ってスピーディで無いものは魅力みりょくが無い。それで退屈な時は、せめて街の自動車をながめる。
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
現実の国家に多かれ少なかれ伴うところの権力濫用らんよう幣害へいがいや、法と刑罰による人間性の歪曲わいきょくや、階級的な搾取さくしゅ抑圧よくあつの危険を排撃する点には、大きな魅力みりょくがあって
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
つねに目なれている景色けしきではあるが、そこのうるわしいながめにも足もとの花にも、なんの魅力みりょくを感ぜずに咲耶子さくやこは、ひたすら、すがたの見えない竹童をあんじていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくは、びっくり敗亡、飛ぶようにして自分の船室に逃げ帰りましたが、内田さんの小首をかしげた横坐りの姿は、可愛かわいねこのような魅力みりょく媚態びたいあふれていて、ながく心に残りました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それ等のものが今ではもう私には魅力みりょくもなんにも無くなってしまっていたからだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「いや、魅力みりょくがあるよ。」
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
見たがる手合もある町内の若い衆などは年中見馴みなれているはずだのに物好きな痴漢ちかんはいつの世にも絶えないもので雲雀の声が聞えるとそれ女師匠が拝めるぞとばかり急いで屋根へ上って行った彼がそんなに騒いだのは盲目というところに特別の魅力みりょくと深みを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、一度それに眼をとおすと、これまでの読書の場合とはまるでちがった魅力みりょくをそれに覚えた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
溌剌はつらつとして美しい彼女という人間のなかには、ずるさと暢気のんきさ、技巧ぎこう素朴そぼく、おとなしさとやんちゃさ、といったようなものが、一種特別な魅力みりょくある混り合いをしていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それはこの庭の静寂に、何か日本にほんとは思われない、不可思議な魅力みりょくを添えるようだった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若い人々にとって科学知識は武器である。彼等はなにか事があったときに、その科学知識を善用ぜんようもするであろうが、同時にまた悪用あくよう魅力みりょくにも打ち勝つことができないであろう。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなたはおどろいたように顔をあげて、ぼくをみた、真面目まじめになった、あなたの顔が、月光に、青白く輝いていた。それは、童女のかおと、成熟した女の貌との混淆こんこうによる奇妙きみょう魅力みりょくでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
新鮮な色彩が眼に、芳醇ほうじゅんな香が鼻に、ほろ苦い味が舌にいずれも魅力みりょくほしいままにする。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それからのち、常夜燈じょうやとうの下は私にはなんの魅力みりょくもないものになってしまった。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
見物けんぶつはもう手をたたくのもわすれて、ふしぎな独楽の魅力みりょくにすいこまれていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「女にとっては、やはり小さな家庭の空気だけが、ほんとうの魅力みりょくらしい。そうではないかな。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
……ひょっとすると、お前の魅力みりょくの秘密はつまるところ、一切を成しうることにあるのではなくて、一切を成しうると考えることができるところに、あるのかもしれない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
勿論画面の調子から云って、吾人ごじんが既に充分に知っている赤外線写真と同じで、たとえば樹々の青い葉などは雪のように真白まっしろにうつって見えた。なんという驚くべき器械の魅力みりょくであるか。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「この女は肉体上の女性の魅力みりょくあますところなく備えてしまった」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、魅力みりょくは何といっても正木の家にある。ついては行きたいが、いざ正木を離れると思うと、温かいふとんの中から急に冷たい畳の上に放り出されるような気がする。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
当日の生贄いけにえとなった例の女(後で判明したが、彼女はおてるという二十二歳になる料理屋の女で、その日はこの向井湯の近所に住む伯母の所を訪ねて来た者であった)の肉体に魅力みりょくを感じ
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士は金属製造ということに、よほど強い魅力みりょくを感じたのであるかもしれない。だが、金属製造などということが、生命誕生の研究いじょうにそんなに魅力があるとは思われないではないか。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
俊亮と恭一とは、むろん、今では次郎にとって最大の魅力みりょくだった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)