頭顱あたま)” の例文
老爺は六尺に近い大男で、此年齡としになつても腰も屈らず、無病息災、頭顱あたまが美事に禿げてゐて、赤銅色の顏に、左の眼がつぶれてゐた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ごちゃごちゃした部屋のすみで、子供同士頭顱あたまを並べて寝てからも、女主と母親と菊太郎とは、長火鉢の傍でいつまでも話し込んでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頭顱あたまが上半分欠けて、中の脳味噌と両方の眼玉が何処かへ飛んでしまい、眼窩めのあなから頭蓋腔あたまのなかを通して、黒血のコビリ着いた線路の砂利が見えます。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
というて前にあるレクシン(経帙きょうちつの締木)を取り左の手に私の胸倉をつかまえて私の頭顱あたまをめがけてぶん擲ろうとしたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
人さし指中指の二本でやゝもすれば兜背形とつぱいなり頭顱あたま頂上てつぺんを掻く癖ある手をも法衣ころもの袖に殊勝くさく隠蔽かくし居るに、源太も敬ひ謹んで承知の旨を頭下つゝ答へけるが
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
仮髪に手をかけても泰然として眠っている。仮髪を取外しても自若じじゃくとして舟を漕いでいる。此の按排あんばいでは一つ位打擲ぶんなぐっても平気の平左衛門だろう。校長の頭顱あたまは丸薬鑵だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
法水はそれには別に意見を吐かなかったが、再び屍体を見下ろして頭顱あたまに巻尺を当てた。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
雨の日には、こずえから雨滴あまだれがボタボタ落ちて、苔蘚こけの生えた坊主の頭顱あたまのような墓石はかは泣くように見られた。ここの和尚さんもやがてはこの中にはいるのだなどと清三は考えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
生前せいぜんうす頭髪かみ茶筌ちゃせんっていましたが、幽界こちらわたくしもとおとずれたときは、意外いがいにもすっかり頭顱あたままるめてりました。わたくしちがって祖父じじ熱心ねっしん仏教ぶっきょう信仰者しんこうしゃだっためでございましょう……。
たくさん頭顱あたま
(旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ふと白いベッドのなかに、雑種あいのこのような目をしたお今の大きな顔と、浅井の形のいい頭顱あたまとがぽっかり見えだしたりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人さし指中指の二本でややもすれば兜背形とっぱいなり頭顱あたま頂上てっぺんく癖ある手をも法衣ころもの袖に殊勝くさく隠蔽かくし居るに、源太もうやまつつしんで承知の旨を頭下げつつ答えけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、それが判れば殺害方法の解決もつくよ。第一、悲鳴をあげなかったことが疑問じゃないか」と法水がアッサリ云い退けると、検事は兜の重量でペシャンコになっている死体の頭顱あたまを指差して
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と三輪さんも主人公の頭顱あたま久濶きゅうかつ叙述じょじゅつに利用した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
又或時、お雪は老爺の頭顱あたまを見ながら
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
青柳は頭顱あたまの地がやや薄く透けてみえ、あかるみで見ると、小鬢こびん白髪しらがも幾筋かちかちかしていたが、顔はてらてらして、張のある美しい目をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
道路みちの上を盤と見做し、道行く人の頭顱あたまを球と思ひ做して、此の男の頭顱の左のはたを撞いて、彼の男の頭顱の右の端に觸れさせると向う側の髮結牀の障子に當つてグルツと一轉して來て
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
頭脳あたまが懈くなって来ると、笹村は手も足も出なかった。そういう時には、かかりつけの按摩あんまに、頭顱あたまの砕けるほど力まかせに締めつけてもらうよりほかなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
死児はふやけたような頭顱あたまが、ところどころ海綿のように赭く糜爛びらんして、唇にも紅い血の色がなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
話に疲れると病人は、長い溜息を吐いて、水蒸気の立つ氷枕に、しびれたような重い頭顱あたまを動かした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
狂気きちがいの起りそうな時に、井戸端へつれて行って、人々はお柳の頭顱あたまへどうどうと水をかけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島はのろくさいその居眠姿がしゃくにさわって来ると、そこにあった大きな型定規のような木片きぎれを取って、縮毛ちぢれげのいじいじした小野田の頭顱あたまなげつけないではいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島は帯をときかけたままの姿で、押入によっかかって、組んだ手のうえにおもてを伏せていた。疳癪かんしゃくまぎれに頭顱あたまを振たくったとみえて、綺麗きれいに結った島田髷の根が、がっくりとなっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その日は午後にまわって来た髪結に、二人一緒に髪を結わしなどしたが、お雪は鏡に向って見る自分の、以前はお増などより髪の多かった頭顱あたまの地がめっきりすけて来たことが、心細かった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)