にら)” の例文
さう考へて来ると、先刻まで晴やかに華やかに、昂ぶつてゐた勝平の心は、苦いにらを喰つたやうに、不快な暗いものになつてしまつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
なかに、シベリアにはチェレムーシャというにらに似た草があって、それをたべると壊血病の癒るということがあります。何なのでしょうね。
買主が入り込んでのちも、其栗の木は自分が植えたの、其にらや野菜菊は内で作ったの、其炉縁ろぶちは自分のだの、と物毎にあらそうた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
猪や兎の肉でも悪くはないが、にらねぎ人参にんじんを刻みこんだたれで、味付けしながら気ながに焙った鹿の肉ほど、甲斐にとってうまい物はない。
にら六十二サンチームというので始まり葉巻き煙草五サンチームというので終わってるその薄ぎたない定価表を、白痴のようにながめてることもあった。
地下室の番人は、にらくさい口臭と、安煙草にみこんだ体を、彼のそばまで運んで来て、何か、求める顔をした。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねぎにらにはないのが目につくというものだから、これを生活の単調を破るために、自然に生まれて来た行事の日の、名にするだけならば別に不思議はない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山蒜やまひるにらと同じような花であるが、大形でしかも紅紫色であるから美しい、それが多い為に地名となったものか。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
……菜大根、茄子なすびなどは料理に醤油したじついえ、だという倹約で、ねぶかにら大蒜にんにく辣薤らっきょうと申す五うんたぐいを、空地あきち中に、植え込んで、塩で弁ずるのでございまして。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きのうまでは、自分のからだのにおいも、夜具やら、下着やらの臭いも、まるでにらのようで、どんなに香水を振りかけても、我慢が出来ず、ひとりで泣いて居りました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
支那人のうちばかりだからにら大蒜にんにく臭気においがする分にはチットモ不思議はない筈であるが
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白い蝶が二つか三つか、はっきりしないもつれた飛び方で、舞い下って来て、水吐けの小溝の縁の西洋にらの花の近くで迷っている。西洋韮の白い花に白い生きものが軽く触れて離れる。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
堆肥の間から生え出したごみまみれのにらの葉か何かを、ものぐさそうに唇でせせりながら、流し目一つ使おうとしないので、とうとうごうを煮やしたコン吉が、赤い壇通をかなぐり捨て
頭の上には、らんを飾った藤蔓ふじづると、数条のつたとがけやきの枝から垂れ下っていた。二人の臥床は羊歯しだにら刈萱かるかやとであった。そうして卑弥呼ひみこは、再び新らしい良人おっとの腕の中に身を横たえた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
手しほ皿(奈良漬。なんばん)。ひたし(にら)。皿(糸こん。くるみ合)。巻ずし(黒のり、ゆば)。吸物(包ゆば二つ。しひたけ。うど)。あげ物(牛蒡ごばう。いも。かやのみ。くわい。柿)
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
少くとも自分は、にらを噛むような思いをして一生を送らなければならない。しかもひろ子は一日一日と生長している! 自分と敏子との間にあるこの障害は一日一日と大きくなっているのだ。
途上の犯人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
にら 八七・七〇 二・七〇 〇・二〇 七・四〇 一・一〇 〇・九〇
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
紫蘇しその葉のむらさきを、にらをまた踏みにじりつつ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
にら——きっと、また石竹せきちくのやつだ。
冬ざれや北の家陰やかげにらを刈る
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
地はにらをもて青みたりき。
牛のしつぽににらを刻む。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
そう考えて来ると、先刻まで晴やかに華やかに、たかぶっていた勝平の心は、苦いにらを喰ったように、不快な暗いものになってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そうかも知れません……。いやそうだ」石念は、にら野芹のぜりみ入れてある籠を抱えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
街道を突っ切ってにら辣薤らっきょう葱畑ねぶかばたけを、さっさっと、化けものを見届けるのじゃ、静かにということで、婆が出て来ました納戸口なんどぐちから入って、中土間へ忍んで、指さされるなりに
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきなりにら臭せえ息かなんかふわアと吹っかけておいて、こっちが目がくらんでぼうとしているのを見すますと、今度は足搦あしがらみにして投げ出して、さんざ踏んづけたうえ、おまけにアンタ
見ると、妻の髮に白いにらの花がこの朝早くから刺さつてゐた。
(旧字旧仮名) / 横光利一(著)
泣けば…………ころべば…………にらの葉が…………
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、それと同時に、にらを噛むやうな嫉妬が、ホンの僅かではあるが、心の裡に萌して来るのを、何うすることも出来なかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「ひと休みしよう」籠にんだにらふきをそばへ置いて、石念じゃくねんと西仏は、崖の中途に腰をおろした。山すその部落は紫いろに煙っているし、木々の芽はほのあかく天地の力を点じている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髮のけの青かりしかな、にらの香のむせびさへしつ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、それと同時に、にらむような嫉妬しっとが、ホンのわずかではあるが、心の裡にきざして来るのを、うすることも出来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「もうよいでしょう」師の御房は、にらがお好きだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青年との散歩が、悲しい幻滅に終つてから、避暑地生活は、美奈子に取つて、喰はねばならぬ苦い苦いにらになつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
青年との散歩が、悲しい幻滅げんめつに終ってから、避暑地生活は、美奈子みなこに取って、喰わねばならぬ苦い苦いにらになった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
が、そこに雄吉にとって食うべき最初のにらがあった。青木は雄吉の予期とは反対に、雄吉を敬遠し始めた。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
が、雄吉の食らうべき第二のにらは、もうそこに用意されていた。雄吉が京都に来た翌年の春であった。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)