“雨(さめ)” の例文
むら雨(さめ)を吹通(ふきとほ)した風(かぜ)に、大火鉢(おほひばち)の貝殼灰(かひがらばひ)——これは大降(おほぶり)のあとの昨夜(さくや)の泊(とま)りに、何(なん)となく寂(さみ)しかつた——それが日(ひ)ざかりにも寒(さむ)かつた。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
すると何日か後の夕ぐれ、男はむら雨(さめ)を避ける為に、朱雀門(すざくもん)の前にある、西の曲殿(きよくでん)の軒下に立つた。其処にはまだ男の外にも、物乞ひらしい法師が一人、やはり雨止みを待ちわびてゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぬか雨(さめ)のちららにむすぶ雌雄(めを)のはな通草(あけび)はすがし蜆(しじみ)いろの花
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
世にも稀な……と私が見ただけで、子供をおぶった女は、何も、観世音の菊供養、むら雨(さめ)の中をばかり通るとは限らない。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬか雨(さめ)のちららにむすぶ雌雄(めを)のはな通草(あけび)はすがし蜆(しじみ)いろの花
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あの辺、八分まで女たちで、行くのも、来るのも、残らず、菊の花を手にしている。折からでした、染模様になるよう、颯(さっ)と、むら雨(さめ)が降りました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕野良(ゆふのら)の小藪が下(もと)の合歓(ねむ)の花きり雨(さめ)かかかる雛燕(ひなつばめ)のこゑ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
藍(あゐ)あさき宵(よひ)の空(そら)、薄月(うすづき)の夜(よ)に入(い)りて、雲(くも)は胡粉(ごふん)を流(なが)し、一(ひと)むら雨(さめ)廂(ひさし)を斜(なゝめ)に、野路(のぢ)の刈萱(かるかや)に靡(なび)きつゝ、背戸(せど)の女郎花(をみなへし)は露(つゆ)まさる色(いろ)に出(い)で、茂(しげ)れる萩(はぎ)は月影(つきかげ)を抱(いだ)けり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
あさみどり葦間の小田の下萌(したもえ)に蛙鳴きたつ霧雨(さめ)の前
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……知(し)つてゐるのは、秋(あき)また冬(ふゆ)のはじめだが、二度(にど)三度(さんど)、私(わたし)の通(とほ)つた數(かず)よりも、さつとむら雨(さめ)の數多(かずおほ)く、雲(くも)は人(ひと)よりも繁(しげ)く往來(ゆきき)した。尾花(をばな)は斜(なゝめ)に戰(そよ)ぎ、木(こ)の葉(は)はかさなつて落(お)ちた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)