さめ)” の例文
むらさめ吹通ふきとほしたかぜに、大火鉢おほひばち貝殼灰かひがらばひ——これは大降おほぶりのあとの昨夜さくやとまりに、なんとなくさみしかつた——それがざかりにもさむかつた。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると何日か後の夕ぐれ、男はむらさめを避ける為に、朱雀門すざくもんの前にある、西の曲殿きよくでんの軒下に立つた。其処にはまだ男の外にも、物乞ひらしい法師が一人、やはり雨止みを待ちわびてゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぬかさめのちららにむすぶ雌雄めをのはな通草あけびはすがししじみいろの花
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
世にも稀な……と私が見ただけで、子供をおぶった女は、何も、観世音の菊供養、むらさめの中をばかり通るとは限らない。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬかさめのちららにむすぶ雌雄めをのはな通草あけびはすがししじみいろの花
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あの辺、八分まで女たちで、行くのも、来るのも、残らず、菊の花を手にしている。折からでした、染模様になるよう、さっと、むらさめが降りました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕野良ゆふのらの小藪がもと合歓ねむの花きりさめかかかる雛燕ひなつばめのこゑ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あゐあさきよひそら薄月うすづきりて、くも胡粉ごふんながし、ひとむらさめひさしなゝめに、野路のぢ刈萱かるかやなびきつゝ、背戸せど女郎花をみなへしつゆまさるいろで、しげれるはぎ月影つきかげいだけり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あさみどり葦間の小田の下萌したもえに蛙鳴きたつ霧さめの前
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……つてゐるのは、あきまたふゆのはじめだが、二度にど三度さんどわたしとほつたかずよりも、さつとむらさめ數多かずおほく、くもひとよりもしげ往來ゆききした。尾花をばななゝめそよぎ、はかさなつてちた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)