進物しんもつ)” の例文
たとえば八さくの朝など、諸家の進物しんもつで広間が埋まるほどな物も、そばから人に与えてしまうので、夕には一物もなかったということです。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風呂敷ふろしきすこちひさいので、四隅よすみむか同志どうしつないで、眞中まんなかにこまむすびをふたこしらえた。宗助そうすけがそれをげたところは、まる進物しんもつ菓子折くわしをりやうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
母親もちょっとけむに巻かれた形で進物しんもつの礼を述べた後、「きれいにおなりだね。すっかり見違えちまったよ。」といった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、侯爵からの進物しんもつだといふので、この頃は何処へ出掛けるにもそれを四季袋の中へ入れるのを忘れない。
「これはただいま途中で手に入れたいぬだ。めずらしいものだから進物しんもつにする」とおっしゃって、さっきの白いぬを若日下王わかくさかのみこにおくだしになりました。しかしみこ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
なし節句前毎せつくまへごと藥禮やくれい目録もくろく其他の進物しんもつなどあめふる如く成れば作藏は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いよいよ、名づけ親としてのわしの進物しんもつをおまえにあげる時がきた。わしは、おまえを評判のお医者にしてあげる。おまえが病人のとこへ呼ばれるときには、そのたんびにわしが姿を見せてあげる。
その進物しんもつを国許から江戸へ送って来るには、もちろん相当の侍も付いているに相違ありませんが、その供の者、すなわち中間どもの中に良くない奴があって、事情を知って一と箱ぐらいを盗み出し
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
療治れうぢ報酬はうしう藥箱くすりばこ進物しんもつといふのは、すこへんだが、本道ほんだうのほかに外療げれう巧者かうしや玄竹げんちくは、わかもの怪我けが十針とはりほどもつて、いとからんだ血腥ちなまぐさいものを、自分じぶんくちるといふやうな苦勞くらうまでして
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
駿府の城ではお目見えをする前に、まず献上物が広縁ひろえんならべられた。人参にんじん六十きん白苧布しろあさぬの三十疋、みつ百斤、蜜蝋みつろう百斤の四色よいろである。江戸の将軍家への進物しんもつ十一色に比べるとはるかに略儀りゃくぎになっている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「冗談じゃないよ。頼む。進物しんもつだ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
母親も一寸ちよつとけむに巻かれた形で進物しんもつの礼を述べたのち、「きれいにおなりだね。すつかり見違みちがへちまつたよ。」とつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「何と、おびただしい進物の台の数ではないか。あれがみな筑前の手みやげなりと彼は云いおる。中国入りのしるしまでに、携えて来た進物しんもつとは、いやさすがに、大気者たいきもの大気者。あはははは」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先日こなひだ氏のとこへ或人から一瓶の進物しんもつを贈つて来た。
甘栗は下のおかみさんへの進物しんもつにしたのである。この進物でかみさんはすっかり懇意になり、お照が鉄瓶てつびんの水をみにと、下へ降りて行った時そでを引かぬばかりに
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
オリブ色の吾妻あずまコオトのたもとのふりから二枚重にまいがさね紅裏もみうらそろわせ、片手に進物しんもつの菓子折ででもあるらしい絞りの福紗包ふくさづつみを持ち、出口に近い釣革へつかまると、その下の腰掛から
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)