しきり)” の例文
比良野貞固さだかたは抽斎の歿した直後から、しきりに五百に説いて、渋江氏の家を挙げて比良野邸に寄寓せしめようとした。貞固はこういった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
肩に懸けたる手をば放さでしきりゆすらるるを、宮はくろがねつちもて撃懲うちこらさるるやうに覚えて、安き心もあらず。ひややかなる汗は又一時ひとしきり流出ながれいでぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
戸をあけてうちへ入らうとすると、闇の中から、あはれな細い啼聲なきごゑを立てゝ、雨にビシヨ/\濡れた飼猫の三毛がしきり人可懷ひとなつかしさうにからまつて來る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
剣をあんじて右におもむきて曰く、諸君うらくはつとめよ、昔漢高かんこうは十たび戦って九たび敗れぬれどついに天下を有したり、今事を挙げてよりしきりかちを得たるに、小挫しょうざしてすなわち帰らば
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
我其のとき人々にむかひ、声をはり上げて、七五旁等かたがたらは興義をわすれ給ふか。ゆるさせ給へ。寺にかへさせ給へと、しきりさけびぬれど、人々しらぬさまにもてなして、只手をつて喜び給ふ。
作は四五人の若いものに取囲まれて、しきりに酒をいられていたが、その目は見据みすわって、あんぐりした口や、ぐたりとしたからだが、他哩たわいがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
宮は牀几しようぎりて、なかばは聴き、半は思ひつつ、ひざに散来るはなびらを拾ひては、おのれの唇に代へてしきり咬砕かみくだきぬ。うぐひすの声の絶間を流の音はむせびて止まず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「みんな御苦労々々々」おとらは暗い入口から声かけながら入って行ったが、養父は裏でしきりに何か取込んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
再びする時聞慣れたるあるじの妻の声して、しきりをんなの名を呼びたりしに、答へざりければやがて自らで来て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手前てめえ」とか、「くたばってしまえ」とか、「親不孝」とか、「鬼婆」とか、「子殺し」とか云うような有りたけの暴言が、げきしきった二人の無思慮な口から、しきりほとばしり出た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
MK私達わたしたちまえに、さきうつくしいひとならんでゐて、元気げんきよくしきり茶目振ちやめふり発揮はつきしてゐた。わたしかれくものに敬意けいいをもつてゐたがつてみるとまたくものとはちがつた、べつ意味いみしたしさがかんじられた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)