赤煉瓦あかれんが)” の例文
「しかし、要心しなきァいかん、課長も『赤煉瓦あかれんが』に気がついたらしく、ボクに、一枚でいいから早くめっけてくれと云いやがったよ」
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
丸の内の一かく赤煉瓦あかれんが貸事務所街のとある入口に、宗像研究室の真鍮しんちゅう看板が光っている。赤煉瓦建ての一階三室が博士の探偵事務所なのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二階の出窓でまどにはあざやかに朝日の光が当っている。その向うには三階建の赤煉瓦あかれんがにかすかなこけの生えた、逆光線の家が聳えている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元気なすずめ一羽いちわ、少し先の、半ば割れた赤煉瓦あかれんがの上に止って、絶えず全身をくるくる回し、をひろげて、かんにさわる鳴き声を立てていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その時分に比すれば大名小路だいみょうこうじの跡なるまるうち三菱みつびしはらも今は大方赤煉瓦あかれんがの会社になってしまったが、それでもまだ処々に閑地を残している。
森のこずえには巨人が帽を脱いで首を出したように赤煉瓦あかれんがの煙筒が見えて、ほそほそと一たび高く静かな空に立ち上った煙は
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
美奈子の心持などに、何の容赦もない自動車は、彼女の心が少しも纏まらない内に、もう彼女を東京駅の赤煉瓦あかれんがの大きい建物の前に下していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
赤煉瓦あかれんがの小じんまりした二階建が気に入ったので、割合に高い一週二ポンド宿料しゅくりょうを払って、裏の部屋を一間ひとま借り受けた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤煉瓦あかれんがの天主教会が校長先生のいろいろな美徳のホームでありましたように、ずっと以前から校長先生のいろいろな悪徳の巣になっているのでした。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とある赤煉瓦あかれんがの恐ろしく殺風景な建物の前に来たとき、案内者が「世界第一の煉瓦建築けんちくであります」と説明した。
記録狂時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「見えましたやろ。そしたら、その屋根の上から突き出しとる幅の広い煙突えんとつをごらん。なんやしらん、セメンが一部がれて、赤煉瓦あかれんがが出てるようだすな」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
卒業に近い課程を和助が学び修めているという教場の窓を赤煉瓦あかれんがの建物の二階の一角に望むことはできた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
右のはずれの方には幅広く視野をさえぎって、海軍参考館の赤煉瓦あかれんががいかめしく立ちはだかっている。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十一の時まで浅草俵町たわらまちの質屋の赤煉瓦あかれんがと、屑屋くずやの横窓との間の狭い路地を入った突当りの貧乏長家に育って、納豆を食い、水を飲み、夜はお稲荷いなりさんの声を聞いて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出来たてのトンネルの赤煉瓦あかれんがに、かぶとの飾りをつけたのが、子供の眼には物々しく美しかった。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
ここの建物は総体が赤煉瓦あかれんがとコンクリートとだけで組み立てられていたから、夜は夜で、昼のうち太陽の光りに灼けきった石の熱が室内にこもり、夜じゅうその熱は発散しきることなく
(新字新仮名) / 島木健作(著)
東電変圧所の赤煉瓦あかれんがの建物が、その田圃の真中にただ一つぽつんと、あたりの田園的風光と不調和に、寂しくしかも物々しく立っているのみで、蛙の声が下宿屋の窓に手に取るように聞え
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
尾州びしゅう侯の山荘以来の遺物かと思われる古木が、なんの風情も無しに大きい枯れ枝を突き出しているのと、陸軍科学研究所の四角張った赤煉瓦あかれんがの建築と、東洋製菓会社の工場に聳えている大煙突と
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
栗原は『全協食産労働』のオルグだということを知ったのは『赤煉瓦あかれんがの会』にゆき始めてから間もなくのことだった。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
隣はぬしのない家と見えて、め切った門やら戸やらにつたが一面にからんでいる。往来を隔てて向うを見ると、ホテルよりは広い赤煉瓦あかれんがの家が一棟ひとむねある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京のまん中に、荒れ果てた原っぱ、倒れた塀、明治時代の赤煉瓦あかれんがの建築が、廃墟はいきょのように取り残されているのだ。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕の記憶にある警察署は古い赤煉瓦あかれんがの建物だった。僕はこの警察署長の息子も僕の友だちだったのを覚えている。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「わざわざ、あのように赤煉瓦あかれんがなんかを使って建てたんです。なにしろ考古学の研究をするんですものねえ」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
陰惨な鼠色のくまを取った可恐おそろしい面のようで、家々の棟は、瓦のきばを噛み、歯を重ねた、その上に二処ふたところ三処みところ赤煉瓦あかれんがの軒と、亜鉛トタン屋根の引剥ひっぺがしが、高い空に、かっと赤い歯茎をいた
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔の丸善の旧式なおたなふうの建物が改築されて今の堂々たる赤煉瓦あかれんがに変わったのはいつごろであったか思い出せない。たぶん自分が二年ばかり東京にいなかった間の事であろうと思う。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「局の西通用門で、『赤煉瓦あかれんが』を流しこんでいてさ、今日昼間、やっと地区の人と、連絡がとれてわかったのよ」
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
殊に狭苦しい埠頭ふとうのあたりは新しい赤煉瓦あかれんがの西洋家屋や葉柳はやなぎなども見えるだけにほとん飯田河岸いいだがしと変らなかった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
岸を上って、山と山との谷間の細道を、しばらく行くと、地下へのトンネルが、古風な赤煉瓦あかれんが縁取ふちどりで、まるで坑道へでも下る様に、ポッカリと黒い口をいている。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女のすぐ下が池で、向こう側が高いがけ木立こだちで、その後がはでな赤煉瓦あかれんがのゴシック風の建築である。そうして落ちかかった日が、すべての向こうから横に光をとおしてくる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木橋のむこうにかわきあがった白い道路がよこぎっていて、そのまたむこうに、赤煉瓦あかれんがの塀と鉄の門があった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
この物理の教官室は二階の隅に当っているため、体操器械のあるグラウンドや、グラウンドの向うの並松なみまつや、そのまた向うの赤煉瓦あかれんがの建物を一目ひとめに見渡すのも容易だった。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
煙の中の明智の頭には、今、あの古城のような赤煉瓦あかれんがの建物が浮かんでいた。その奇妙な建物を背景にして、女のように美しい青年の顔が、二重写しになって頬笑ほほえんでいた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その三角の縁に当る赤煉瓦あかれんがと黒い屋根のつぎめの所が細い石の直線でできている。そうしてその石の色が少し青味を帯びて、すぐ下にくるはでな赤煉瓦に一種の趣を添えている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの陰々たる赤煉瓦あかれんがの建物の内部は、今やこの世ながらの地獄であった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
裁判所の赤煉瓦あかれんがも、避雷針のある県庁や、学校のいらかも、にぶく光っている坪井川の流れも、白い往還をかすかにうごいている馬も人も、そして自分も、母親も、だれもかれも、うすよごれて
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
その家は明治時代のすえごろ、ある有名な時計商の主人が建てたもので、建物全体が古風な赤煉瓦あかれんがでできていて、時計塔も煉瓦で組みあげ、その上にとんがり帽子のような屋根がのっているのです。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)