誦経ずきょう)” の例文
旧字:誦經
「運座では、お戻りの遅いはず。ご主人のお帰りなさる間、こうしておるも所在ない。お仏壇へ暫時ざんじ誦経ずきょうをおゆるし下さるまいか」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
派手はで誦経ずきょうの寄付が大臣からもあった。寄付はまだほかからも多く来た。競争的にこうしたことをするのが今日の流行である。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
加代姫は、誦経ずきょうでもするように眼をとじて、顎十郎の言うことを聴いていたが、静かに眼をあけて顔をうつむけると
私は翌朝、父に表の病気の一日も早く全快するように誦経ずきょうしてくれるよう頼んだ。父は、法衣ころもを肩にまきつけながら
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
豪食、十二日にいたり、梵士教法に従い誦経ずきょうして雌雄猴を婚せしめたと出づるも、王夫妻の相愛または猴にあやかって子を産むようの祈願から出たのであろう。
戦死者があると、いつも、もと坊主だった一人の兵卒が誦経ずきょうをした。その兵卒は林の中へもやって行った。
氷河 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
一同そろって上に登り、納骨堂へ参拝して、それからいよいよ本堂で経を上げてもらわねばならぬのであるが、誦経ずきょうの支度のできるまで六人は庭向の部屋に入れられた。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ただ花輪の菊が、その中でうずたかく、白いものを重ねている。——式はもう誦経ずきょうがはじまっていた。
葬儀記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
玄蕃が帰ったのであろう、仏壇の鐘を鳴らしながら、姑の低く誦経ずきょうするこえが聞えてきた。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
誦経ずきょうがすむと尊氏は半跏趺坐はんかふざ(片あぐら)のかたちをとり、丹田たんでん(下腹)にいんをむすび、呼吸をひそめて、いつもの坐禅に入ったまま
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお僧都の堂で誦経ずきょうをしてもらうための寄進もして、山を源氏の立って行く前に、僧都は姉の所に行って源氏から頼まれた話を取り次ぎしたが
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
月の十五日には村の家々の軒に立たれ誦経ずきょうされて行かれますが、それとても朝早く日の出ぬ山道の置露おくつゆに、おん足がしっとりと膝のあたりまで濡れて居られますが
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さっきから誦経ずきょうを止めて、茫然と事の次第を眺めていた僧たちは、にわかにどよめきを挙げながら、「打ち殺せ」とか「からめ取れ」とかしきりに罵り立てましたが、さて誰一人として席を離れて
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
晋の釈宝唱の『比丘尼びくに伝』二に〈竹林寺の静称尼戒業精苦、誦経ずきょう四十五万言云々、常に一虎あり、称に従って去来す、もし坐禅せば左右に蹲踞す、寺内諸尼もし罪失を犯し、時に懺悔せずんば
家人の誰にも知れないように、仏間で夜明けまで誦経ずきょうしてすごした。——こういう噂も伝えられた。土田の妻しのぶの実兄である篠原頼母たのもから出た話で、妻のしのぶだけが知っていたのだという。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すなわち、宮中深きところに、秘勅の壇を構え、昼夜、護摩ごまを焚き、あぶら汗もりんりと、顔も焔にして、誦経ずきょう、振鈴の精魂しょうこんこめた修法僧は
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御息所の容体の悪い時に誦経ずきょうの布施として僧へお出しになった品であったが、形見に見たいからとまたお手もとへお取り返しになったものである。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
誦経ずきょうの声がするではないか、誰だ」
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
館の大廂おおびさしからは護摩ごまの煙が雲のように立ちのぼり、衆僧の振鈴しんれい誦経ずきょうが異様な喚叫かんきょうをなして二条の町かどあたりまでも聞えてくるほどだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなことを思って大納言のために愛宕おたぎの寺で誦経ずきょうをさせ、またそのほか故人と縁故のある寺でも同じく経を読ませた。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
間もなく低いうねり道をめぐって来るその人なる者の姿が見えた。なにか一念に誦経ずきょうの低声を口にふくんでわき眼もふらずに登ってくるのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの最後の歌の露が消えてゆくように終焉しゅうえんの迫ってきたことが明らかになったので、誦経ずきょうの使いが寺々へ数も知らずつかわされ、院内は騒ぎ立った。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「軒からは、氷柱つららが下がっているし、風は吹きさらすし、さような所であなたは、何を好んで誦経ずきょうしておられたのですか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫の女王一人が捨てがたいほだしになって、長く滞留せずに帰ろうとする源氏は、その前に盛んな誦経ずきょうを行なった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてそんな戦の後ではまた、はるか東坂下の荼毘所だびしょで、日々夜々、誦経ずきょうが聞え、死者の屍を焼くけむりが、千早からも毎日望まれるほどだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏前の誦経ずきょうなどは源氏からもさせた。中将は最も愛された祖母の宮の法事であったから、経巻や仏像その他の供養のことにも誠心まごころをこめた奉仕ぶりを見せた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのうちに、遠くで、誦経ずきょうの声がした。母が朝々欠かさない地蔵経のおつとめらしい。高氏も自然それを共にするかのようにうなじを垂れた。そして
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やしきのほうへも老いた弁の君の所へというようにして金品を贈り、誦経ずきょうの用にすべき物などさえも送った。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は、泣いて、仏陀ぶっだのまえへ走った。そして、ほとんど狂人のようになって誦経ずきょうした。また、一室にこもって凝坐ぎょうざした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夢に死んだ恋人を見たことに心は慰まないで、かえって恋しさ悲しさのまさる気のする源氏は、早く起きてしまって、何とは表面に出さずに、誦経ずきょうを寺へ頼んだ。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それがこんど二度目に、鎌倉の寺へ詣でて、夏木立につつまれた伽藍がらんのなかで、じっと、衆僧しゅうそう誦経ずきょうせみしぐれの音を耳に、眼をふさいでいたら、忽然こつぜん
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左大将夫人が兄のためにささげ物をしたのはいうまでもないが、大将自身も真心のこもったささげ物をしたし、誦経ずきょうの寄付などにも並み並みならぬ友情を示した。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
山とばかり薪を積み、戦うごとに数百数干の屍を運んで来ては、仮の荼毘だびにふし、そしてそこの仮寺で、かたちばかりな誦経ずきょうを上げている死の谷であったのだ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
院は姫宮の心情を哀れにお思いになっていた。かねての計画のように五十か寺での御誦経ずきょうが最初にあって、法皇のおいであそばされる寺でも大日如来だいにちにょらいの御祈りが行なわれた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
泉岳寺では、わずかに家臣の通夜つやで、しめやかに誦経ずきょうとむらいが済まされたに過ぎなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山の御寺みてらへも誦経ずきょうの使いを出し、そのほかの所々へも読経どきょうをさせる使いをすぐに立てた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
寺へ行き仏に謁し、誦経ずきょうをさせ、僧へ物を与えなどして夕方から山荘へはいった。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、云うのが大殿の棟に燃えつかんばかり聞えたが、二位殿の看護の真心や、加持祈祷かじきとうの衆僧が、諸声あわせて唱うる誦経ずきょうに、やがて夜明けと共に消え去った——とか紛々たる取沙汰なのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夜の悪夢の中であなたを見たものですから、ほうぼうの寺へ誦経ずきょうを頼みました。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
祈祷きとうの衆僧と、信玄幕下の諸将も、伽藍がらんいっぱいに立ちこめる護摩のけむりの中に、いならんでいた。——そして時折鳴る敵国調伏ちょうぶくの鐘の音、誦経ずきょう諸声もろごえは、この烈石山雲峰寺のふもとまで聞えた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
院のきさきの宮、中宮ちゅうぐうをはじめとして、法事へ諸家からの誦経ずきょうの寄進、ささげ物なども大がかりなものが多いばかりでなく、この法会ほうえに志を現わしたいと願わない世人もない有様であったから
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その間、日観は、法衣ころもの袖をあわせて誦経ずきょうしていたが
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十九日の法事の際にも御厚志の見える誦経ずきょうの寄付があった。何も知らぬ幼い人の顔を御覧になってはまた深い悲哀をお感じになって、そのほかにも法事の際に黄金百両をお贈りになった。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それにつれ、誦経ずきょうも、だんだんに、高かった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七日七日の誦経ずきょうの日が次々来るたびに、その注意を子息たちがすると
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
兵部卿の宮の夫人も誦経ずきょうの寄付をし、七僧への供膳きょうぜんの物を贈った。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
盛んな誦経ずきょうの申し込みが各夫人からもあった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)