ことづ)” の例文
「御苦労だが、帰りに並仙なみせんに寄って明日来るようにそう云ってくれ。」とことづけをした。並仙というのは角町にあった俥屋くるまやである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
沢は恐入おそれいらずには居られなかつた。とびはねにはことづけても、此の人の両袖に、——く、なよなよと、抱取だきとらるべき革鞄ではなかつたから。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
というものは私が手紙をことづかって行ったサラット・チャンドラ・ダースという人は英国政府の官吏であって月に三百六十ルピーずつもらって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼はその後父親にことづけて貝殻一つつみと見事な鳥の毛を何本か送って寄越した。わたしの方でも一二度品物を届けてやったこともあるが、それきり顔を見たことが無い。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「女これかれゆあみなどせむとて、あたりの宜しき所に下りて往く云々、何の葦影にことづけて、ほやのつまのいずし、すしあはびをぞ、心にもあらぬはぎにあげて見せける」
何故と云へば、わしは誰にわしの手紙をことづけると云ふ事も出来ないからである。わしは僧侶と云ふ神聖な職務に就きながら誰にわしの心の中を打明ける事が出来るだらう。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
石動の町の医師をことづかりながら、三造は、見返りがちに、今は蔓草つるくさきずなったろう……その美女たおやめの、山のふもと辿たどったのである。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめさんのお母さんからそこの番頭さんになにかことづけがあったのである。番頭さんは二人に金平糖コンペイトーのお菓子をくれて、そのうえはじめさんには拾銭白銅を一つお駄賃だちんにくれた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
ちょいとことづける事があるのだから、折角見えたものをすげなく追帰すのも、お気の毒だと思って、通して上げましたがね、じっとして待っていなさい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天満の鉄橋は、瀬多の長橋ではないけれども、美濃みのへ帰る旅人に、怪しい手箱をことづけたり、俵藤太たわらとうだに加勢を頼んだりする人に似たように思ったのだね。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五分ごふんあればにあひませう。」其處そこで、べつ赤帽君あかばうくん手透てすきるのを一人ひとりたのんで、そのぶん切符きつぷことづけた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それに、あの、お出先へお迎いにくのなら、御朋輩ごほうばいの方に、御自分の事をお知らせ申さないように、内証ないしょでと、くれぐれも、おことづけでございましたものですから。」
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一夜ひとよさいのりはあげたけれど、用の間が忙しゅうて、夜さり高津の蛇穴へ放しにひまがない、頼まれてほしい——云うて、美津さんにことづきょう、とそれが用で顔見にかはった云うたやないか。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みぎ盲人めくらは、れいものは、をんなかげを、めう、はう、とらへよう、蹂躙ふみにじらう、取啖とりくらはうとつけ𢌞まはす——こなたからことづけて、けるやうひなさい、とまをしたのを、よくもかずに
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)