見識けんしき)” の例文
使いますのは、酒買いに行く小狸のいたずらで、わたしどもは、そんな見識けんしきのないことはいたしません。禿狸の沽券こけんにかかわります
「會ふも會はないもあるものか、俺にそんな見識けんしきがあるわけは無い。若い娘さんを岡ツ引の門口に立たせて置く奴があるものか」
しかし見識けんしきある彼の特長として、自分にはそれが天真爛漫てんしんらんまんの子供らしく見えたり、または玉のように玲瓏れいろうな詩人らしく見えたりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見識けんしき迂闊うくわつ同根也どうこんなり源平げんぺい桃也もゝなり馬鹿ばかのする事なり。文明ぶんめいぜにのかゝらぬもの、腹のふくるゝものを求めてまざる事と相見あひみ申候まうしそろ。(十四日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
気象きしょうによっては、こんな男と言葉を交すのでさえも見識けんしきにさわるように思うのであるに、この女は、それと冗談口じょうだんぐちをさえ利き合って平気でいます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし彼女には武士の娘という見識けんしきと、貞操を護る懐剣とがあった。魔ものの爪が伸びようとすれば、咄嗟に死を示す。それにはさすがの毒牙も持て余した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
落語家らくごか見識けんしきからすると、『新玉あらたまの』は本統ほんたう發句ほつくだが、『たまの』は無茶むちやだとして、それで聽衆ちやうしうわらはせようとするんだが、おれところこれことなりだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「ほんとうの名人めいじんというものは、みんなあとになってからわかるのだ、見識けんしきたかかったとでもいうのだろう。」と、そのはなし相手あいてはさながら、名人めいじんが、その時代じだいでは
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、耳食じしよくといふ言葉ことばで、ひとがおいしいといふのをくとおいしいとおもふのは、くちべるのではなくて、みゝべるのだ。見識けんしきがないといふ意味いみ使つかつてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「冗談は兎に角、学があると義太夫を覚えないなんて仰有ると、あなたの見識けんしきにかゝわりますよ」
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
嘉川家の御用人ごようにん平左衞門殿の申さるゝには御手討てうちになりたる者ゆゑ此方にて取置とりおきたり然樣さやうぞんずべしとのことで御座りましたが其平左衞門と申人はおそろしい人で大層たいそう見識けんしきにて私しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なかなか、ゆずらない。戸主の見識けんしきというものかも知れない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
屋敷者やしきもの見識けんしきとでもいうのであろうか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
世間には例のないことではなく、一がいに女郎と申すと安くなりますが、花魁となると見識けんしきの高いもので御座います。
しかし出るのは見識けんしきかかわるというんでしょう。私から云えば、そう見識ばるのが取りも直さずあなたの臆病なところなんですよ、ござんすか。なぜと云って御覧なさい。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……加代姫さまといやア、大名のお姫さまの中でも一といって二とさがらねえ見識けんしきの高いお方。毎朝、手洗の金蒔絵の耳盥みみだらいをそのたびにお使いすてになるというくらいの癇性。
と堀尾君はいつもと違って、見識けんしき超越ちょうえつしていた。明日は一日支度で忙しい。夜分は同郷の先輩岡村さんを訪れる。して見ると、今晩で当分お別れになる。但し明後日あさっては日曜だ。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お茂与は「私が余計なことをしたと思われると、皆んなにつらく当られますから」ともっともなことを言って裏口へ廻り、平次と八五郎は十手の見識けんしきを真っ向に
「待っている方が見識けんしきがある?」
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お茂與は『私が餘計なことをしたと思はれると、皆んなにつらく當られますから』と尤もなことを言つて裏口へ廻り、平次と八五郎は十手の見識けんしきを眞つ向に
見識けんしきってものがありますよ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御藥園の見識けんしきは大したもので、若年寄直々の指令を受けなければ、町奉行では手の付けやうがありません。
「僕は見識けんしきを下げたくない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それに、重三郎はそんな大した男ぢやないし、何んとか小町に好かれさうな人柄でもない。江戸の町娘は見識けんしきが高いから、親の氣に入らなくて勘當された許婚を
「小艶さんは見識けんしきが高くて、小屋の者なんか相手にもしませんし、小染さんは堅い一方の人でしたから」
父親の見識けんしきが高かつたので、さだまる縁談もなく、『あれは將軍樣のめかけにでも出す氣だらう』
與力筆頭笹野新三郎が出役となれば、多寡たくわが豪士の見識けんしきも文句もありません。
公方くばう樣の糸脈を引く——と大法螺おほぼらを吹くだけあつて、なか/\の見識けんしきです。
「わかりましたがね、あの屋敷は名題の地獄ぢごく屋敷で、宵に入つたら、朝まで出られやしません。門番のおやぢだつて、御老中の御家來の見識けんしきだから、一杯買つたくらゐぢや言ふことを聽いてくれません」
淺川にも、深川にもお小夜は見識けんしきが高いから、素浪人や貧乏者を
いかにも如才のないその癖見識けんしきは落さぬ武家でした。