とう)” の例文
土佐の国中から穴内あなない川の渓へ越える繁藤しげとうに、肥後の人吉から日向へ越える加久藤かくとうは、共に有名な峠であるがこのとうもまた「たを」であろう。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どすーンと音がして、空から庭のまん中に落ちてきたのは、とうの寝椅子だった。と思うまもなく、こんどはその上へ人間が降ってきて、どすン。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そ、そこんところはとうどん、わっしから旦那に申上げよう。わっしは、現にこの眼でお嬢様たちの死体の上がったところを、見てるだから……」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
かおるの侍従はとう侍従とつれ立って院のお庭を歩いていたが、新女御の住居すまいに近い所の五葉ごようの木にふじが美しくかかって咲いているのを、水のそばの石に
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのむかし京役者の坂田とうらうは江戸の水は不味まづくて飲めないといつて東下あづまくだりをする時には、京の水を四斗樽に幾つも詰め込んで持つて往つたといふが
「只今御宅へ伺いましたところで、ちょうどよい所で御目にかかりました」ととうさんは鄭寧ていねいに頭をぴょこつかせる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから「全ク燕子ニ類シ」あれを燕と思えば思えぬこともないから、まあここまでは許して置いて、「藤ニ生ズ」のとうは本当はツルあるいはカズラのことです。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
虎若、小虎若、弥六、彦一、岩、とう九、小駒若ここまわかなどという御小人おこびとたちである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれ、とう様はここにおわしたのか。これはこれはいかい粗相を」
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おいおいとうさん」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
隱しませう其品そのしな葬禮さうれいの時のをさめ物なれども然樣さやう申上なば御うたがひがかゝらうかと存じ重代ぢうだいの品と申上しかどじつ死人しにんをさめ物なりと申ければ役人扨々さて/\なんぢは不屆き者なり此脇差は中仙道なかせんだう鴻の巣の鎌倉屋金兵衞と云者の所持しよぢの品にて其子分なる練馬ねりまとう兵衞と云者に貸遣かしつかはしたる脇差なり然る所其みぎ藤兵衞ほか二人の行衞ゆくゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とう大納言は長い間院の別当をしていて、親しく奉仕して来た人であったから、院が御寺みてらへおはいりになれば有力な保護者を失いたてまつることになるのを
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
すると向う横町へ曲がろうと云う角で金田の旦那と鈴木のとうさんがしきりに立ちながら話をしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その風体は、およそこの田舎町に似合わしからぬ立派なもので、パナマ帽を目深に被り、右手には太いとう洋杖ステッキをつき、左手には半ば開いた白扇を持ち、その扇面を顔のあたりにかざして歩いていた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
とうどんのいうこたア、確かにふんとうの話でやすで……」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
大夫たいふとう宗兼むねかねむすめ。——名は、有子ありこと。
んだとうさん」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
とう大納言、東宮大夫たゆうなどという大臣の兄弟たちもいたし、蔵人頭くろうどのかみ、五位の蔵人、近衛このえの中少将、弁官などは皆一族で、はなやかな十幾人が内大臣を取り巻いていた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ある日とうさんが散歩に出たあとで、よせばいいのに苦沙弥君がちょっと盗んで飲んだところが……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高級役人や殿上人の饗膳きょうぜんなどは内蔵寮くらりょうから供えられた。左大臣、按察使あぜち大納言、とう中納言、左兵衛督さひょうえのかみなどがまいって、皇子がたでは兵部卿ひょうぶきょうの宮、常陸ひたちの宮などが侍された。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ご存じではございますまい、ただいまとう大納言と申し上げます方のお兄様で、衛門督えもんのかみでおかくれになりました方のことを何かの話の中ででもお聞きになったことがございますでしょうか。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
とう中納言のおうちへは始終通っておいでになると見せておいでになって、気に入った奥さんでないらしくてね、お父様のおやしきに暮らしておいでになることのほうが多いということだね」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
弁も聞く人のないのに安心して、とう大納言のことなどもこまごまと薫に聞かせた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
迎えの勅使としてとう大納言が来たほかにまた無数にまいったお迎えの人々をしたがえて兵部卿の宮は宇治をお立ちになった。若い人たちは心の残るふうに河のほうをいつまでも顧みして行った。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
正月の元日に尚侍ないしのかみの弟の大納言、子供の時に父といっしょに来て、二条の院で高砂たかさごを歌った人であるその人、とう中納言、これは真木柱まきばしらの君と同じ母から生まれた関白の長子、などが賀を述べに来た。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源侍従はきまじめ男と言われたことを残念がって、二十日過ぎの梅の盛りになったころ、恋愛を解しない、一味の欠けた人のように言われる不名誉を清算させようと思って、とう侍従を訪問に行った。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)