藁沓わらぐつ)” の例文
竹の笠と、半合羽はんがっぱと、カルサンと、藁沓わらぐつといったようなものが、取揃えられてあるのを見ると、あれをお借りしようという気になりました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まん中の大きなかまからは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆きゃはんを巻いたり藁沓わらぐつをはいたり、はたらきに出る支度をしてゐました。
耕耘部の時計 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
藁沓わらぐつでも布を入れたのに特色ある形のを見かけます。古裂は手仕事にいつも一役を買っています。この辺で旅の足を羽後の方に向けるとしましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
是より最後のたのしみは奈良じゃと急ぎ登り行く碓氷峠うすいとうげの冬最中もなか、雪たけありてすそ寒き浅間あさま下ろしのはげしきにめげずおくせず、名に高き和田わだ塩尻しおじり藁沓わらぐつの底に踏みにじ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こんなくるしい道中どうちゅうのことでございますから、御服装おみなりなどもそれはそれは質素しっそなもので、あしには藁沓わらぐつには筒袖つつそで、さして男子だんし旅装束たびしょうぞく相違そういしていないのでした。
自分はとりこだから、腰をかける訳に行かない。草の上に胡坐あぐらをかいていた。足には大きな藁沓わらぐつ穿いていた。この時代の藁沓は深いものであった。立つと膝頭ひざがしらまで来た。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美濃方面から冬期にこの神社の位置に達するためには、藁沓わらぐつを用意し、その上に「かんじき」をあてて、難場中の難場と聞こえた国境の加子母峠かしもとうげを越えねばならない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、藁沓わらぐつ穿いた三名の武士が、息をあえいで登ってきたのである。萩原年景の家来だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家の中にはあの牛飼の若者が、土器かわらけにともした油火あぶらびの下に、夜なべの藁沓わらぐつを造っていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が乗客はまだいずれも雪国らしいぎょうさんな風姿なりをしている。藁沓わらぐついて、綿ネルの布切で首から頭から包んだり、綿の厚くはいった紺の雪袴もんぺ穿いたり——女も——していた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
幼い子供に藁沓わらぐつ穿かせ左と右へ——
飢えたる百姓達 (新字新仮名) / 今野大力(著)
まん中の大きなかまからは湯気ゆげさかんにたち、農夫たちはもう食事しょくじもすんで、脚絆きゃはんいたり藁沓わらぐつをはいたり、はたらきに出る支度したくをしていました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
庄内は稲作いなさくの盛な所ですから、藁工品が多く、中に優れたもののあるのは申すまでもありません。特に藁沓わらぐつには様々な形のがあって見事な作り方を示します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
道路にのこしすてられた草鞋わらじ、馬の藁沓わらぐつ、それから馬糞まぐそたぐいなぞをかき集めるものがある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分は大きな藁沓わらぐつを組み合わしたまま、草の上で女を待っている。夜はだんだんける。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、山門を降りた所の木蔭から、思いがけない範宴が、藁沓わらぐつをはき、竹の杖を持って、ふいに横から出て、供の僧のいちばん後にいてあるきだした。弟子僧たちは驚いて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足袋二枚はきて藁沓わらぐつつま先に唐辛子とうがらし三四本足をやかため押し入れ、毛皮の手甲てっこうしてもしもの時の助けに足橇かんじきまで脊中せなかに用意、充分してさえこの大吹雪、容易の事にあらず、吼立ほえたつ天津風あまつかぜ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
店の天井にはまた幾種かの藁沓わらぐつが下っていますが、赤い布を入れたそれは可愛い子供のくつも見られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「はいただ今、妹に藁沓わらぐつをはかせてもらっておりますから、すぐに参ります」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歩一歩と、供の者の藁沓わらぐつは重くなり、馬のひづめを埋めた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)