萎縮いしゅく)” の例文
二階の正面に陣取じんどって、舞台や天井てんじょう、土間、貴顕きけんのボックスと、ずっと見渡した時、吾着物の中で土臭つちくさからだ萎縮いしゅくするように感じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
恐らく湿度計は乾湿かんしつハイグロメーターの湿球のような状態におかれ、水銀は急に熱を奪われて萎縮いしゅくしたことでしょうし、湿度計の方は
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
偉大なゲーテといえども、いかに努力しても甲斐かいがない。魂の四萎縮いしゅくしている、主要な機能は富に滅ぼされてなくなっている。
痙攣! 萎縮いしゅく! そうして強直ごうちょく! ……大猿は一瞬にして死骸となった。つづいて幾匹かの甲州猿が、同じ径路をとって死んで行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてその服地の匂いが私の寂寥を打ったとき、何事だろう、その威厳に充ちた姿はたちまち萎縮いしゅくしてあえなくその場にたおれてしまった。
器楽的幻覚 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ところが桜が咲く時分になるとこの血液がからだの外郭と末梢まっしょうのほうへ出払ってしまって、急に頭の中が萎縮いしゅくしてしまうような気がする。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして多くは製産者の萎縮いしゅくで仕事に破滅が来る。その結果作物は下落する。ここにいう制度とは主として製産と販売とへの制度である。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そしておそらくは最後となるであろうところの愛の表示! すべて体の使用されない部分が萎縮いしゅくし退化するといわれるとおり
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
帝の剛毅は、ここでも一こう萎縮いしゅくしていない。或る折にはお腕の垢をりながら、こういって呵々かかと大笑されたことなどある。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそんなことから、つい小さい子供の自信を失わしめ、萎縮いしゅくせしめて、せっかく上達すべきものをまで上達せしめないようにしているのだった。
それと同じように、余所目よそめには痩せて血色の悪い秀麿が、自己の力を知覚していて、脳髄が医者のう無動作性萎縮いしゅくに陥いらねば好いがと憂えている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
手も足も出ない、萎縮いしゅくの態で、むやみに鼻をかんでばかりいるかも知れない。何しろ電車の中で、毎日こんなにふらふら考えているばかりでは、だめだ。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「なに細君はぴんぴんしていらあね。僕がさ。何だか穴の明いた風船玉のように一度に萎縮いしゅくする感じが起ると思うと、もう眼がぐらぐらして動けなくなった」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを開展させずに萎縮いしゅくさせて置く限り、女性に如何なる力が潜んでいるか、何人なんぴとも知ることが出来ない。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
兄は雪子の気配を察するだけに、いよ/\その場の処置が困難になつて、ただなま返事をして萎縮いしゅくしてゐた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
対手あいてわかい女であるから、ちがっていては、そこらあたりに好くある連中といっしょにせられると云う恐れが頭を離れないので、それが私を萎縮いしゅくさしてしまった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かえって人間の生命を萎縮いしゅくさせ、しばしば人を絶望の深淵につきおとすことがあるものであります。
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
人民すでに自国の政府に対して萎縮いしゅく震慄の心をいだけり、あに外国に競うて文明を争うにいとまあらんや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
暗黒による子供の萎縮いしゅく、それら時代の三つの問題が解決せられない間は、すなわち、ある方面において、社会的窒息が可能である間は、すなわち、言葉を換えて言えば
ただ私がうれえる最大のことは、ともかく秀吉は力いっぱいの仕事をしており、落伍者という萎縮いしゅくのために私の力がゆがめられたり伸びる力を失ったりしないかということだった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
刹那せつな彼の神経を萎縮いしゅくさせて、とっさの判断、敏速機宜きぎの行動等をいっさい剥奪はくだつし、呆然として彼をいわゆる不動金縛かなしばりの状態に、一時佇立ちょうりつせしめたのだと省察することができる。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ちびた筆で萎縮いしゅくしたように十一月二十三日と日附がしてあった。それを見るとややあわてたような気持になって、衣嚢かくしの中から電報を取りだして、今度はその日附を調べてみた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なれなれしい口をきくどころのさわぎではなく、かちかちに萎縮いしゅくしてしまって、汗ばんだ、ぎこちない自分の身体からだを、どこか押し入れの中へでも大急ぎでかくしてしまいたかった。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
わたしも若いころには、そういう人たちと交わり、その影におおわれてすっかり萎縮いしゅくしてしまうところだった。凡人にとって、偉人、とりわけ町の偉人の影ほど害になるものはない。
主張することも大切だ。才分というものは備わっていると同時にみずから認めなければ萎縮いしゅくしてしまう、今そこもとに必要なのは自分が千人にすぐれた人物だという自信をもつことだ
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
倫理学と実生活との間には、萎縮いしゅくし疲労した智的のワルツが繰返されている。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
秘密を知ったともお言いにならぬ院でおありになったが、女宮は御自身で罪人らしく萎縮いしゅくしておいでになるのも幼稚な御態度である。こんなふうの人であるから不祥事も起こったのであろう。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
私はこの儘だと体力の消耗が烈しく精神的の萎縮いしゅくが甚だしい、それに苦痛も想像外の酷い影響があるから、これを機会にカテーテル挿入を一時中止して排尿奈何いかんをためして見たらどうでしょう。
思うにそれは天災で萎縮いしゅくしていた心が反撥し抵抗する叫び声であった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
五には悪口のために落胆し萎縮いしゅくすること
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それが一層彼の心を萎縮いしゅくさせた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
萎縮いしゅくした顔 病める肉体の渦
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さればです。ここに萎縮いしゅくし、とぼしき粮米ろうまいを喰い細らせてあるよりは、むしろ堂々、正攻法を取って、海津の城お取詰あそばし、諸道の敵の散軍を
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
始めに勢いのよかったチューリップは、年々に萎縮いしゅくしてしまって、今年はもうほんの申し訳のような葉を出している。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その身体は化粧のために萎縮いしゅくし、あまりに狭小な生活のためにせ細ってはいたが、まだ若くて強健でなよやかであることは、見通されるのだった。
男が伸々のびのび拘束こうそくなしに内側の生命をのばす間に、女は有史以来おさえためられてそれを萎縮いしゅくされてしまった。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつのに婆さんが上がって来たんだか、自分の魂が鳩の卵のように小さくなって、萎縮いしゅくした真最中だったから、御膳の声が耳に入るまではまるで気がつかなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翼が萎縮いしゅくし、それこそ豚のしっぽみたいな、つまらない男になりそうな気がするので、なんとかして、ここは、新しい男の面目にかけても、あっさりと気持を整理して
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ビーストンを読んでペンが萎縮いしゅくする人は、ひとり甲賀三郎氏ばかりでなく、これは
探偵小説壇の諸傾向 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
産工業の萎縮いしゅくから物価は高騰と低落の板ばさみ、官は貢ぎを課し吏は賄賂を強要する、そこへもってきて大阪陣で死に損ねたり主人をうしなったり食禄しょくろくを離れたりした浪人の群れが
学校においては運動や遊戯を、家庭においては一切の自由を、それらのすべてを奪われた私である、けれど私のうちに生きている生命はそれで萎縮いしゅくしてしまうほど弱いものではなかった。
独断的信条のうちに化石しもしくは利得のために堕落したる人種は、文化の嚮導者きょうどうしゃとしては不適当である。偶像もしくは金銭の前に跪坐きざすることは、歩行の筋肉と前進の意志とを萎縮いしゅくさせる。
彼らはいったいどこで夏頃の不逞ふていさや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明にくろずんで、翅体したい萎縮いしゅくしている。汚い臓物で張り切っていた腹は紙撚こよりのようにせ細っている。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
むしろ憐憫れんびんの目を向けているような感じがして、私は一層萎縮いしゅくした。
別な見方からすれば、内容を萎縮いしゅくせしめる形式が最もいけないのであって、その逆の形式をもとめるべきであり、私自身はその形式の必要を痛感しつつもはや長く悩まされ通しているばかりである。
文章の一形式 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
偉大なる思想が何ゆえに萎縮いしゅくするか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
信雄の意中はともかく、こう二人は、さすがに、使いとして、徳川家へ臨むのも、気まりが悪そうに、大書院の席に、ひどく萎縮いしゅくして、控えていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の魂は生活の他の場合には萎縮いしゅくしきっていたが、そういうまれなおりにだけは大きく呼吸していた。
私がこういった時、せいの高い彼は自然と私の前に萎縮いしゅくして小さくなるような感じがしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういうふうに考えて来ると、新聞記事というものは、読者たる人間の頭脳の活動を次第次第に萎縮いしゅくさせその官能の効果を麻痺まひさせるという効能をもつものであるとも言われる。
ニュース映画と新聞記事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)