苜蓿うまごやし)” の例文
黄金色のえにしだが三角形の頭を突き出し、白い苜蓿うまごやしが点々と野面のづらを彩っています。……鷓鴣しゃこが飛び出す、鷹がゆるゆると輪を描く。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ここは夏の初めになると苜蓿うまごやしが一面にはえる。与次郎が入学願書を持って事務へ来た時に、この桜の下に二人の学生が寝転んでいた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風が静かな吐息といきを送って、苜蓿うまごやしの薄い葉をひるがえすと、蒼白あおじろいその裏が見える。そして、畑一面に身ぶるいが伝わる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
往来の少ない通りなので、そこには枯れ枯れになった苜蓿うまごやしが一面に生えていて、遊廓との界に一間ほどのみぞのある九間道路が淋しく西に走っていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
失戀の彼が苦しまぎれに渦卷の如く無暗に歩き𢌞つた練兵場は、曩日なうじつの雨で諸處水溜りが出來て、紅と白の苜蓿うまごやしの花が其處此處にむらをなして咲いて居た。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
失恋の彼が苦しまぎれに渦巻の如く無暗に歩き廻った練兵場は、曩日のうじつの雨で諸処水溜りが出来て、紅と白の苜蓿うまごやしの花が其処此処にむらをなして咲いて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
血の気を増す苜蓿うまごやしの匂いがした。肌目きめのつんだネルのつやをして居た。甘さは物足りないところで控えた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私はお前の兄たちと、苜蓿うまごやしの白い花の密生した原つぱで、ベエスボオルの練習をしてゐた。お前は、その小さな弟と一しよに、遠くの方で、私たちの練習を見てゐた。
麦藁帽子 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
秋とはいっても北地のこととて、苜蓿うまごやしも枯れ、にれ檉柳かわやなぎの葉ももはや落ちつくしている。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
にごり屋の軒下へ車を預けて、苜蓿うまごやしのしとったような破毛布やぶれげっとを、後生大事に抱えながらのそのそと入り込んで、鬼門から顔を出して、若親方、ちとお手伝い申しましょうかね……とね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仄白き靄の中なる苜蓿うまごやし人踏む頃の明方の夢
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
苜蓿うまごやしン中おめへはブツ込む
苜蓿うまごやし7・2(夕)
この島の牛どもが喰べる苜蓿うまごやしは塩気を含んでいるため、勢い牛乳も多少の塩味があるというので評判であること。
ここだけの話だけど、苜蓿うまごやしなんか、サラダとおんなじにやわらかいよ。つまり、油とをつけないサラダさ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
左右さいう見渡みわたかぎ苜蓿うまごやし下臥したふは、南部馬なんぶうま牧場ぼくぢやうくに、時節じせつとて一とうこまもなく、くもかげのみそのまぼろしばして一そうさびしさをした……茫々ぼう/\たる牧場ぼくぢやうをやゝぎて、みちゑがところ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やつと一めんに苜蓿うまごやしだけの生えてゐる小高いところに出られた。
四葉の苜蓿 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
彼は動く麦畑の影像すがたを捕える。食欲をそそる苜蓿うまごやしや、小川に縁どられた牧場の影像すがたを捕える。通りすがりに、一羽の雲雀ひばりが、あるいはひわが飛び立つのをつかまえる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
とほあと見返みかへれば、かぜつた友船ともぶねは、千すぢ砂煙すなけぶりをかぶつて、みだれて背状うしろさまきしなつて、あたか赤髪藍面せきはつらんめん夜叉やしやの、一水牛すゐぎうくわして、苜蓿うまごやしうへころたるごとく、ものすさまじくのぞまれた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
腕の中にすみれ紫雲英れんげ苜蓿うまごやしや、そういうつつましい野の花を抱き、なにかいいかけるように前のほうへすこし首を傾けて立っていますが、それはリュウベンスの描いたあのオフィーリヤの顔ではなく
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兄貴のフェリックス——けをしよう。僕も、苜蓿うまごやしなら食べるよ。お前は食べられないぜ、きっと。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
うそだと思うなら、指で追いかけてみたまえ。彼を相手に鬼ごっこをやり、そして跳ねるすきねらって、うまく苜蓿うまごやしの葉の上でつかまえたら、その口をよく見てみたまえ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
鷓鴣と農夫とは、一方は鋤車すきぐるまの後ろに、一方は近所の苜蓿うまごやしの中に、お互いに邪魔にならないくらいの距離を隔てて、平和に暮している。鷓鴣は農夫の声をっている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それは、深い苜蓿うまごやしの中に隠れることである。しかし、そこへまっすぐに飛んで行くのである。
鷓鴣しゃこと農夫とは、一方は鋤車すきぐるまのうしろに、一方は近所の苜蓿うまごやしのなかに、お互いの邪魔にならないくらいの距離をへだてて、平和に暮らしている。鷓鴣は農夫の声をっている。