良人うち)” の例文
それに良人うちがあの通りの男で、自分一人さえ好けりゃ女房なんかどうなったって、おれの知った事じゃないって顔をしているんだから。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうしてそんなに急に帰ることになったのです。実はそのことで、良人うちは今夜桐沢さんのところへ行っているのですが……。」
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いずれ良人うちでお話し申すだろうが、些イと考えてる事があるんだから……それはそうと母親さんの貰いたいとお言いのはどんなお子だか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
長閑に一服吸ふて線香の烟るやうに緩〻ゆる/\と烟りをき出し、思はず知らず太息ためいき吐いて、多分は良人うちの手に入るであらうが憎いのつそりめがむかふへ廻り
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「姉さん、これこれの都合ゆえ、どうか、こちらは人少なで広いから、良人うちの保養のために一室借して下さいな」
南さんの方が真実ほんとうですね。ねえ南さん、良人うちがね、巴里パリイでね、此処こゝへ着いた十日程は若かつたねと云ふのでせう。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「いいえ、良人うちは今夜おそいのよ。粉問屋こなどんやへ帰りに廻るっていってましたもの。二郎さん、わたしじゃいけないの」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梶「なにも済まない事は有りません、甲斐/″\しく骨惜みをしないで宜く働いておくれで、お気の毒だから良人うちのに聞いてたとこで、まアお休みなさいよ」
「あのお爺さんのいるうちは、とても丸く行かないだろうって、良人うちでも心配しているんですよ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「アノ良人うちでは歸れと言ひますけれど、歸つたところでね……それに十日に死んだとしますと今日はもう十四日ですから……今から歸つたところで仕樣もありませんし……」
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「手前のような悪党はそんな事をするだろうが、私達はそんな細工は大嫌いさ。遺言状が出て来て、良人うちが相続することに決れば、博奕打なんか、敷居もまたがせるこっちゃない」
「あなたは何でも御自分の偉い所をかくしていらつしやるから、ほんとにうつかりものは云へませんわ。妾の良人うちのもあれで兵隊ですのよ。それこそお恥かしい兵隊ですの……。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
やかましやの良人をつとひまといふては毛筋けすぢほどもけさせてれぬ五月蠅うるささ、夜分やぶんなりとかへりは此方こちからおくらせうほどにお良人うちねがふて鳥渡ちよつとれられまいか、つてる、と文面ふみ御座ござります
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あなたはわたし良人うちといっしょに見ているんでしょう。それから良人と岡本をまたいっしょに見ているんでしょう。それが大間違よ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実はネお前さんのお嫁の事についちゃアイと良人うちでも考えてる事があるんだから、これから先き母親さんがどんな事を言ッておよこしでも
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「まあ、そんな事があったのですか。なにかの心得になるかも知れませんから、良人うちにも一と通り話して置いて下さいよ。」
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長閑のどかに一服吸うて線香の煙るように緩々ゆるゆると煙りをいだし、思わず知らず太息ためいきいて、多分は良人うちの手に入るであろうが憎いのっそりめがむこうへまわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……勿体なくも、上人様のお筆でございますわいな、拝みなされ、良人うちのひと、これ、よう拝んで、お前様が人殺しの罪にちなかったお礼をいうてくださんせ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あ「斯うしよう、お前の着物の寸法を書いておよこし、良人うちの留守の時縫って上げよう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
良人うちはあんなだし、私でもいなかった日には、一日だって店が立行きませんよ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『けれど尼様あまさまのやうに見える寂しい頭だつて良人うちは嫌ひなのよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そりゃ良人うちだって兄さんに頼まれて、口はいたようなものの、そこまで責任をもつつもりでもなかったんでしょうからね。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうですねえ。多代子さんと違って、透さんにうっかりそんなことを訊いて、それが良人うちの耳にでもはいると、わたしが又叱られますから。」
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とても良人うちにはお任せなさるまいがもしもいよいよ吾夫のすることになったら、どのようにまあ親方様お吉様の腹立てらるるか知れぬ、ああ心配に頭脳あたまの痛む
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「もういいわよ、そんな過ぎたこと。まアお上がんなさいな二階へ。良人うちもじきに帰るでしょうから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「田舎の方のはなしがつきさえすれば、良人うちだってうっちゃっておくような人じゃありませんよ。もちろん大したことは出来やしませんけれど、相当なことはするつもりでいるんでしょうよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
或日わたしは又良人うちに叱られたの。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「どうして一廻どころか。健ちゃんとは十六違うんだよ、姉さんは。良人うちが羊の三碧さんぺきで姉さんが四緑しろくなんだから。健ちゃんはたし七赤しちせきだったね」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ね。二郎さん。お隣のおばさんには、良人うちんでいるうちからお葬式のことまで、ほんとにご厄介になったのよ。あんたからもよくお礼を仰っしゃって下さいな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そなたは此頃仲町の甲州屋様の御本宅の仕事が済むと直に根岸の御別荘の御茶席の方へ廻らせられて居るではないか、良人うちのも遊ぶは随分好で汝達の先に立つて騒ぐは毎〻なれど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
良人うちもあすこは、今年がちょうど三年目だでね、どうか巧い工合に失敗しくじらないでやってくれればいいと思ってね……三年目にはきっと失敗しくじるのが、これまでのあの人の癖だもんですからね。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ことに良人うちでもああしてお父さんにあなたの世話を頼まれていて見ると、黙ってほうってもおく訳にも行かないでしょう。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ようお上人様にも、良人うちのひとの噂をお聞きでございましょうが、おそろしい一徹者のうえに、大の念仏ぎらい。そのため、御庵室へ詣でたいと思っても、有難いお教えを
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出入るものに感応寺の塔の地曳の今日済みたり柱立式はしらだて昨日済みしと聞く度ごとに忌〻敷、嫉妬の火炎ほむら衝き上がりて、汝十兵衞恩知らずめ、良人うちの心の広いのをよい事にして付上り
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「多分それまでに帰ってくるようなことはないだろうと思うけれど、偶然ひょっとして良人うちが帰って来たら、うまい工合に話しておいて下さいよ。せんに縁づいていた人のお墓参りに行ったとそう言ってね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
良人うちのひとも、えろう酔うたし、旅づかれもあろうほどに、あしたの朝は寝坊するというておりますでの、あなたも悠々ゆるゆると眠って、朝立ちには、暖かい御飯など食べて行きなされ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫉妬の火炎ほむらき上がりて、おのれ十兵衛恩知らずめ、良人うちの心の広いのをよいことにしてつけ上り、うまうま名を揚げ身を立つるか、よし名のあがり身の立たばさしずめ礼にも来べきはずを
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ことによると、良人うちでは年始状位まだ出してるかも知れないよ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良人うちはこのごろ妙なことをしているんだよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「云わなくたって、あたしにはちゃんと判っている。秀八がしている翡翠珠ひすいだまは、おまえがいつか、わたしのかんざし良人うち根付ねつけにどうですと云ってすすめた珠じゃないか。どう? 恐れ入ったろう」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「謝ッて下さいっ、皆さん、良人うちのひとへ」と、もう泣き声だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)