膝元ひざもと)” の例文
「野郎、ふざけたことをぬかすな、このお膝元ひざもとで、永らく公方様の御恩になっていながら、公方様の悪口を言うなんて飛んでもねえ野郎だ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其時そのとき越前守は平石次右衞門吉田三五郎池田大助の三人を膝元ひざもとへ進ませ申されけるは其方共そのはうども家の爲め思ひくれだんかたじけなく存るなりよつて越前が心底しんてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「けさ柳橋で顔を合せると——お膝元ひざもとの殺しを知らずにいるようじゃ、銭形の親分もやきが廻ったね——て言やがる」
仔細しさいもなしに喧嘩けんかを売る。おのれ等のような無落戸漢ならずものが八百八町にはびこればこそ、公方くぼう様お膝元ひざもとが騒がしいのだ」と、彼は向き直って相手の顔をにらんだ。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうって指導役しどうやく老人ろうじんはあたかもまごにでもたいする面持おももちで、自分じぶんおし膝元ひざもとせるのでした。
これを御成敗ごせいばいくださらないでは、手前ども力の弱い町人は、安心してお膝元ひざもとに住んではおられません
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要するに国許とは格別なもんじゃ、論より証拠、江戸は天下のお膝元ひざもとじゃ、はっはっは
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
節子、冷然と坐ったままでいたのであるが、ふと、膝元ひざもとの白い角封筒に眼をとめ、取りあげて立ち、縁側に出てはきものを捜し、野中のサンダルをつっかけ、無言で皆のあとを追う。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
膝元ひざもとを騒がしたら、戸田のお家はどうなると思う? 去年内匠頭様たくみのかみさま刃傷にんじょうの際にも、大垣の宗家そうけを始め、わが君侯にも連座のおとがめとして、蟄居ちっきょ閉門へいもんをおおせつけられたではないか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
父母の膝元ひざもとを離れて他人の所に住み込んでいるのは可哀かわいそうだけれども、奉公人たちはいつでも国へ帰りさえすれば、会うことの出来る親があるのに、自分にはそれがないのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新任しんにん奉行ぶぎやうひかるので、膝元ひざもとでは綿服めんぷくしかられない不平ふへいまぎらしに、こんなところへ、黒羽二重くろはぶたへ茶宇ちやうはかまといふりゆうとした姿すがた在所ざいしよのものをおどかしにたのだとおもはれたが
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
いらっしゃいいらっしゃいと雛妓を膝元ひざもとへ呼んで、背をでてやりながら、その希望のためには絶対に気落ちをしないこと、自暴自棄を起さないこと、諄々じゅんじゅんと言い聞かした末に言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこでなるべく多数の武士を膝元ひざもとに呼び寄せておくことになったのである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「全く、これじゃ公方様のお膝元ひざもとはひどい。」と幸兵衛は言った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「今夜おれの座敷へ忍んで来て、俺の膝元ひざもとへ金包を置くから、それを盗んでみろ、もし見つけたら俺がこの刀で叩き切っちまうがどうだ」
笹野の旦那はこうおっしゃるのだよ——この夏あたりからうわさは聴いていたが、三日に一人、五日に二人罪のない人間がお膝元ひざもとの江戸で、人参にんじん牛蒡ごぼうのように斬られるのは捨ておき難い。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
半分はんぶん分て伯母御が一生の養育料やういくれうにと分ちあたへければ其座の人々大いに感心かんしんなし傳吉どのは五ヶ年の間天下の御膝元ひざもとの江戸でもまれたゆゑちがうた者なり是にて相濟あひすむ上からは名主殿も御子息の勘當を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
交通不便な片田舎へられでもすることか、東京のまん中の丸の内へ勤務することになって、勿体もったいなくも天子様のお膝元ひざもとへ移住すると云うのに、何が悲しいことがあろうと、自分でもそう思い
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「どうした八、お前の留守に、お膝元ひざもとの佐久間町で、飛んだ騷ぎがおつ始まつたぞ」
夜、人知れず、この地蔵様のお膝元ひざもとを掘って、相当の金を埋めておく、その金が三日たってもとのままであった時は、その月のうちに願い通りの大金がもうかる、なんぞと言い触らす者があった。
「でも、今晩お膝元ひざもとの櫻の馬場で、寶掘りが始まるんですぜ」
徳川幕府の影が薄くなって、そのお膝元ひざもとでさえこの始末。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「左様でございます、大神宮様のお膝元ひざもとでございます」