肝胆かんたん)” の例文
旧字:肝膽
伏して観る、朝廷陵替りょうたい綱紀こうき崩擢ほうさい、群雄国に乱るの時、悪党君をあざむくの日にあたりて、備、心肺ともにく、肝胆かんたんほとんど裂く。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、この肝胆かんたんあい照らしたうちとけよう。ふしぎといえばふしぎだが、男子刎頸ふんけいの交わりは表面のへだてがなんであろう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昨日の敵と妥協否肝胆かんたん相照すのは日常茶飯事であり、仇敵なるが故に一そう肝胆相照らし、たちまち二君に仕えたがるし、昨日の敵にも仕えたがる。
堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
肝胆かんたんくだく」という言葉は、古人がこの二人のために残した言葉ではないかとさえ思われるほど、生活のあらゆる面について研究をかさね、工夫くふうを積んだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「おやおや、とうとう生かしてしまった。惜しい事をしたね。まさかそこへは打つまいと思って、いささか駄弁をふるって肝胆かんたんを砕いていたが、やッぱり駄目か」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ヤアギチは彼と知り合いになると、すっかり肝胆かんたん相照すようになり、ヂェルジャヴィンがプーシキンを遇したように、大いに見込みがあると祝福するのであった。
同志ひそかに此処ここつどいては第二の計画を建て、磯山逃奔とうほんすともいかで志士の志の屈すべきや、一日も早く渡韓費を調ととのえて出立の準備をなすにかずと、日夜肝胆かんたんくだくこと十数日
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いかばかり肝胆かんたんを砕いているかは御存じの通り、江戸表に於ては三文安の喬庵きょうあんを押立て、十八文の看板を横取りしようとたくんだが、残念ながら物にならず、名古屋表に於ては
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陰陽師おんみょうじなどが、皆それぞれに肝胆かんたんを砕いて、必死の力を尽しましたが、御熱はますます烈しくなって、やがて御床おんゆかの上までころび出ていらっしゃると、たちまち別人のようなしわがれた御声で
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして周は放たれてかえって来たが、それからはますます成と肝胆かんたんを照らした。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
父御ててご、母御、一家一門のかたきが討ちてえばっかりに、肝胆かんたんくだき、苦艱くかんをかさねて来たあの人が、いよいよという瀬戸際に、つまりもしねえ女泥棒風情の、恋のうらみから、底を割られ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
勇猛ゆうみょう精進潔斎怠らず、南無帰命頂礼なむきみょうちょうらいと真心をこら肝胆かんたんを砕きて三拝一鑿いっさく九拝一刀、刻みいだせし木像あり難や三十二そう円満の当体とうたい即仏そくぶつ御利益ごりやくうたがいなしとなまぐさ和尚様おしょうさま語られしが、さりとは浅い詮索せんさく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「豪い人同志ですから、肝胆かんたん相照らすんでございましょう?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
章介 ひどく又肝胆かんたん相照あいてらしたものだな。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
智深ちしんは、その人をむしろに迎え、名乗りあってから、一さんけんじた。おとこおとこを知り、道は道に通ずとか。二人はたちどころに、肝胆かんたん相照あいてらして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鰡八大尽の妾宅のやかましいことと言ったら、それがため夜の目も寝られないのであります。大尽から内命を下された出入りの者は、いかにしてこの暴慢なる道庵を退治すべきかに肝胆かんたんを砕きました。
「期せずして肝胆かんたん相照らしましたな。若様がた」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おたがい、若い頃の、がき、夕顔棚の貧乏暮しのときから、ふんどし一ツで、肝胆かんたんのかたらいもし、出ては、莫迦ばかもしあい、ときには喧嘩もし
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけにわば筑前の無二の股肱ここう。いや官兵衛、御辺ごへんとならば、きっと肝胆かんたん相照らすものがあろうぞ。刎頸ふんけいを誓ったがよい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「重々、自責しぬいてはおりまする。で、主膳めも、雪辱に肝胆かんたんをくだいたすえ、何かその儀について、お耳に入れ申したいことがあるよしで」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、半瓦の弥次兵衛は、自分の世話している婆の味方というので、肝胆かんたんを照らし合うところがあり、婆は婆でまた、多くの後ろ楯に囲まれて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肝胆かんたんあい照らした、龍太郎、小文治こぶんじ、民部の三人は、夜のふけるをわすれて、旗上げの密議をこらした。果心居士かしんこじは、それ以上は一言ひとことも口をさし入れない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
功臣閣の秘宮を閉じて、帝御みずからの血をもって書かれた秘勅をうけてから日夜、肝胆かんたんをくだいて
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、官兵衛はつとにその事について、眠る間も肝胆かんたんをくだき、ついに一策を思いついて、おとといからそれに懸り、ようやく今、その端緒たんしょを得て、これへはかりに来たものであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事情がおわかりだったら、拙者はすぐ蔡九さいきゅうの使いで、朝廷のさい大臣のもとまで急がねばならん。——そのうえ江州へ立ち帰り、何とか、先生の救助法に肝胆かんたんをくだいてみるつもりですが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸襟きょうきんをひらくとか、肝胆かんたん相照あいてらすとか、ことばや形の上で、手を握ったわけでも何でもなく、不和な仲に、彼を知り、此方こちらを知って、自然、男と男との交際つきあいが始まって来たのであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから河北の袁紹えんしょうなども、かつては、上賓の礼をとって、かれを迎えようとしたが、荀彧はいちど曹操と会ってから、たちまち肝胆かんたん相照らして、曹操の麾下きかへ進んで加わったものであった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
周瑜しゅうゆを説いて降さんと、種々肝胆かんたんをくだきましたが、ことごとく、失敗に終り、なんの功もなく立ち帰り、内心、甚だ羞じておる次第でありますが——いまふたたび一命をなげうつ気で、呉へ渡り
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肝胆かんたん相照あいてらすとは、まさに、この若い二人のこの場のことだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肝胆かんたんを練りくだいて、次の作戦を案じていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忽ち、こう肝胆かんたんを照らし合って
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)