素見ひやかし)” の例文
のみならず中には、多少易経えききょうの端を読みかじッている手輩てあいなどもあって、素見ひやかしのうちでも売卜者ばいぼくしゃたちには苦手にがてな部類の者と見たので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素見ひやかしらしい若いのが一人二人、ぽつねんと胴の間に退屈らしく待っている呑気な姿も、江戸時代の名残りめいてちょっとオツだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
そのお駒が突然に冥途へ鞍替えをしたのであるから、伊勢屋の店は引っくり返るような騒ぎになった。土地の素見ひやかし大哥あにいたちも眼を皿にした。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たまさかに、障子が橙色の灯影ひかげに燃え立つように明って見える二階はあったが、それでもまだ素見ひやかしの客の姿も、そこらの格子戸の中には見透かせなかった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
つい台所用に女房が立ったあとへは、鋲の目が出て髯を揉むと、「高利貸あいすが居るぜ。」とか云って、貸本の素見ひやかしまでが遠ざかる。当り触り、世渡よわたりむずかしい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殊に外国からやって来た素見ひやかしの客(たとえば、松岡とか大島とかいう人たち)に対しては、まるでもう処女の如くはにかみ、顔を真赤にしたという話を聞きました。
返事 (新字新仮名) / 太宰治(著)
十九というにしては少しけて居りますが、地味なあわせにこればかりは燃えるような赤い片襷かただすき、いずれかと言えば淋しく品の良い顔立ちで、口の悪い素見ひやかしの客などは
だが、曲るは曲って行ったにしても、素見ひやかし一つするでもなく、勿論あがろうというような気はいは更になく、唯何と言うことなくぶらりぶらりと、曲っていっただけの事でした。
腰に尺八の伊達だてはなけれど、何とやらいかめしき名の親分が手下てかにつきて、そろひの手ぬぐひ長提燈ながでうちんさいころ振る事おぼえぬうちは素見ひやかし格子先かうしさきに思ひ切つての串談じようだんも言ひがたしとや
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
素見ひやかしの客があちらにチラリ、こちらにチラリ、ところ/″\にタクシーが横づけになつて居て、まるで、猖獗しようけつな伝染病流行当時の都市を見る様である。一つしかない名古屋の遊郭だ。
名古屋スケッチ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
素見ひやかしに来た道楽者が思わず知らず社会学者となり考古学者となってしまいます。
今夜もなまけものの癖として品川へ素見ひやかしにまいり、元より恵比寿講をいたす気であるうちあがりましたは宵の口、散々さんざぱら遊んでグッスリ遣るとあの火事騒ぎ、宿中しゅくじゅうかなえくような塩梅しき
他の素見ひやかしが立去ったを幸い十銭銀をほうり出し、これをと云うと本屋は彼の眼で見て、秘訣ですかと問返した音になお嘲りの分子が含まれて居るようで貞之進はぎょッとしてそうだとの一言が出ず
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
十九といふにしては少しけて居りますが、地味なあはせにこればかりは燃えるやうな赤い片襷かただすき、いづれかと言へば淋しく品の良い顏立ちで、口の惡い素見ひやかしの客などは
容貌きりょうがいいのに声がいいというので、廓でもだいぶ評判になって、素見ひやかしなんぞは大騒ぎをしていたんだが、それがどうしてか、去年の暮頃からちっとも姿を見せなくなってしまったので
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
内へ来るような馴染なじみはなし、どこの素見ひやかしだろうと思って、おやそうか何か気の無い返事をして、手拭てぬぐいを掛けながら台所口だいどころぐちから、ひょいと見ると、まあ、お前さんなんだもの。真赤まっかになったわ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こゝに品川の貸座敷に和国楼わこくろうと申すのがございまして大層流行はやります。娼妓も二十人足らず居り、みんな玉が揃っているので、玉和国と、悪口をいう素見ひやかしまでがめそやしているぐらいでげす。
何とやら嚴めしき名の親分が手下てかにつきて、揃ひの手ぬぐひ長提燈、賽ころ振る事おぼえぬうちは素見ひやかしの格子先に思ひ切つての串戲も言ひがたしとや、眞面目につとむる我が家業は晝のうちばかり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
投銭にはちゃちゃらかちゃんなんて古風な流行唄はやりうたをやってますが、い声で、ぞッとするような明烏あけがらすをやりますんでね。わっしあ例のへべれけで、素見ひやかし数の子か何か、鼻唄で、銭のねえふてくされ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんとやらいかめしき親分おやぶん手下てかにつきて、そろひのぬぐひ長提燈ながてうちんさいころことおぼえぬうちは素見ひやかし格子先かうしさきおもつての串談じようだんひがたしとや、眞面目まじめにつとむる家業かげうひるのうちばかり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
素見ひやかし追懸おっかけた亭主が、値が出来ないで舌打をして引返す……煙草入たばこいれ引懸ひっかかっただぼはぜを、鳥の毛の采配さいはいで釣ろうと構えて、ストンと外した玉屋の爺様じいさまが、餌箱えさばこしらべるていに、財布をのぞいてふさぎ込む
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)