神木しんぼく)” の例文
しかるにあるとし八幡宮はちまんぐうがこの鶴岡つるがおか勧請かんじょうされるにつけ、その神木しんぼくとして、わしかずある銀杏いちょううちからえらされ、ここにうつえられることになったのじゃ。
神木しんぼくの上にけられている忍剣をのぞいては、すべての生物いきものに、天国そのままな秋の朝だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神職 しがくしに秘め置くべき、この呪詛のろい形代かたしろを(藁人形を示す)言わば軽々かるがるしう身につけおったは——別に、恐多おそれおお神木しんぼくに打込んだのが、森の中にまだほかにもあるからじゃろ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神社の祭礼行列に田楽でんがくを演じ、その重要な一曲たる「中門口ちゅうもんぐち」を舞った場所を、もとは中門口と呼んでいたのを、多分はその地にくす神木しんぼくがあったためか註文楠と書いている村もある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
臺灣たいわん阿里山ありさんにもすばらしい巨木きよぼくがあります。阿里山ありさん神木しんぼくととなへられる臺灣たいわん花柏さわら紅檜べにひ)は、地上ちじよう五尺ごしやくたかさのみきのまはりが六十五尺ろくじゆうごしやくたか二十五間にじゆうごけん樹齡じゆれい二千年にせんねんといはれてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
伊勢木とは、伊勢太神宮へ祈願をこめるための神木しんぼくをさす。こうした深い山の中に古くから行なわれる雨乞いの習慣である。よくよくの年でなければこの伊勢木を引き出すということもなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何かというと日吉ひえ神輿しんよとか春日かすが神木しんぼくをかつぎ出して要求を通そうとするのがうるさい、その点福原は山河をへだてて距離も離れているので、坊主神官たちの邪魔はあるまいという点にあった。
かしよ、にくみきざはしたふと神木しんぼく、わたしの悲しい心のよろこび
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それは神木しんぼくである御蔭おかげじゃ。わしほかにこの銀杏いちょうには神様かみさま御眷族ごけんぞく多数おおぜいいてられる。しいささかでもこれに暴行ぼうこうくわえようものなら、立所たちどころ神罰しんばつくだるであろう。
二十一日目に神官しんかんがきてみて、ほそいきでもかよっていれば、神に謝罪しゃざいがかなったものとして、つみをゆるされて手当てあてをする、しかしここ四、五十年のあいだに、ご神木しんぼくの山毛欅にけられたもので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからかぞえてももうずいぶんの星霜つきひつもったであろう。一たん神木しんぼくとなってからは、勿体もったいなくもこのとおみき周囲しゅうい注連縄しめなわりまわされ、誰一人たれひとりさえれようとせぬ。