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ふりがな文庫
“
眤
(
じっ
)” の例文
今の
弾丸
(
たま
)
は当らなかった。だが今度浮いて来たら、と伊藤次郎は
眤
(
じっ
)
と海面を
見戍
(
みまも
)
っていたが、ふとその眼を流血船へ移したとたんに
流血船西へ行く
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
で、野原の雪の中に
蹲踞
(
うずくま
)
って
眤
(
じっ
)
と白装束の三つの影を見送っていると、最初に立ったのは、老人のようで頭に何か白いものを
被
(
かぶ
)
っている。
北の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
之を聞くと園八郎は額へ青筋を出しまして
顔色
(
かおいろ
)
を変え、袴の間へギュッと手を入れて肩を張らし、曲淵甲州公の顔を
眤
(
じっ
)
と見詰めて居りましたが
政談月の鏡
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
主人はこの不可思議な解釈を聞いて、あまり思い掛けないものだから、眼を丸くして、返答もせず、鈴木君の顔を、
大道易者
(
だいどうえきしゃ
)
のように
眤
(
じっ
)
と見つめている。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
然
(
しか
)
し晴れ渡った日の
午下
(
ひるさがり
)
の太陽に隈なく照り映えて、寒水の如く澄み切った晶冽な大気の中に水が滴るかと思われる位冴えに冴えた
藍靛
(
らんてん
)
の肌を
眤
(
じっ
)
と見ていると
美ヶ原
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
▼ もっと見る
而して閉じた眼を大きく見開いて、床の上に起き直って
眤
(
じっ
)
と母親の顔を見て物を言おうとした。母親は、喜んで娘に抱き付いた。而して
薔薇と巫女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
香苗は、
嬉々
(
きき
)
として柿畑の柿を荒している野猿の群を、幾朝も、幾朝も、ふところ手をしながら
眤
(
じっ
)
と微笑みの眼でみていた。
春いくたび
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
今度は藤尾の方で、返事をする前に糸子を
眤
(
じっ
)
と見る。針は
真逆
(
まさか
)
の用意に、なかなか
瞳
(
ひとみ
)
の
中
(
うち
)
には出て来ない。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それ
所
(
どころ
)
か
眤
(
じっ
)
と見ている
中
(
うち
)
に大抵の人は恐ろしくなって、始めの
勢
(
いきおい
)
は何処へやら、あれを登ってやろうというような
考
(
かんがえ
)
は、朝日に解ける霜のように消えてしまうのである。
越中劒岳
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
眤
(
じっ
)
とその様子を見て居りましたが、
軈
(
やが
)
て一掴みの金子を小菊に包んで
政談月の鏡
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
頬は削り落したように
窶
(
やつ
)
れて、
青晒
(
あおざ
)
めて、眼ばかり、怪しく、狂わしく、気味悪く、
眤
(
じっ
)
と坐ってランプの火影を
見詰
(
みつ
)
めていた。
凍える女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
船長は
眤
(
じっ
)
と伊藤の眼を
覓
(
みつ
)
めた。伊藤青年は力に溢れた微笑を見せている。——
如何
(
いか
)
にもさあ行きましょうと云いたそうだ。
流血船西へ行く
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「今日のみの縁とは? 墓に
堰
(
せ
)
かるるあの世までも
渝
(
かわ
)
らじ」と男は黒き
瞳
(
ひとみ
)
を返して女の顔を
眤
(
じっ
)
と見る。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
偃松の繁みに隠れて、暫くこの平和で
長閑
(
のどか
)
なさまを
眤
(
じっ
)
と眺めていた私達は、野獣、しかもおとなしい野獣を前にして、恐らく祖先から伝わる残忍性の血潮の衝動からであろう。
鹿の印象
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
やおら青年は
起
(
た
)
ち上らんとする時、悲しき、嬉しき歌の声は
杜
(
もり
)
の
彼方
(
かなた
)
に聞える。彼は耳を澄まして、
眤
(
じっ
)
と彼方を見詰めた。
森の妖姫
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
残る三名、拒む気力なく二三間退く、孫次郎は刀の柄へ手をかけたまま、
眤
(
じっ
)
と相手の眼を
覓
(
みつ
)
めながら云った。
おもかげ抄
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
眤
(
じっ
)
と見ていると丸く盛り上った一つ一つの梢は、大きな
竈
(
かまど
)
の中で渦を巻く燄のように、明くなったり暗くなったりして、光と蔭と錯綜した曲線の皺がモクモクと動いているようだ。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
また、さびしい、室の裡に物思いに沈んで、
眤
(
じっ
)
と下を見つめて、何事をか考えている、青い顔の
年老
(
としと
)
った女があろう。
夕暮の窓より
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
手にする度に、
眤
(
じっ
)
と見ていると貴女がどこかで『堪忍してあげる』と云っているような気がしたものです
柿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
夫
(
それ
)
を探し出すには東から眺めた山々の姿を
眤
(
じっ
)
と瞳の底に烙き付けて置く必要がある。
春の大方山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
「又来年来い、夏の暑い盛りには来るがええだ。」といったが、清吉はそれには答えんで、
眤
(
じっ
)
と考え込んでいた。
蝋人形
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
老人は
眤
(
じっ
)
と眼をつむっていた。そして
暫
(
しばら
)
くすると静かに首を振って云った。
春いくたび
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
眤
(
じっ
)
と見ていると何だか其雲の上が歩いて渡れそうな気がして来る。
山の魅力
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
眤
(
じっ
)
と
立
(
たっ
)
ていると手足がしびれて来てだんだん気が遠くなった。遂に何処に
何
(
どう
)
しているのやら分らなくなった。——
種々
(
いろん
)
なものが見えた。種々な音が聞え始めた。
越後の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
そう思ったとき、
道化
(
ピエロ
)
の方でも五郎の顔を
眤
(
じっ
)
と
覓
(
みつ
)
めたようだった。
劇団「笑う妖魔」
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
羽子
(
はね
)
の衰えた
蜻蛉
(
とんぼ
)
は、赤く色づいた柿の葉に止っては立ち上り、また下りて来て止っている。磐の音は穏かに、風のない静かな昼に響いた。
眤
(
じっ
)
と僧は立止って、お経を唱えている。
僧
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
彼は見る見る
蒼白
(
あおざ
)
めてそう
呟
(
つぶ
)
やき、
眤
(
じっ
)
と瞑目した。
流血船西へ行く
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
私は
眤
(
じっ
)
と空を見ていると
自
(
おのず
)
から
瞼
(
まぶた
)
が閉じて、心の曇りを感じた。ただ何の気なしに西の空を見る。山又山に山は迫って重っている。日はその又山と西の
奈落
(
ならく
)
の底に沈むのであろう。
北の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
私は、此の室の中で、独り
臥
(
ね
)
たり、起きたり、瞑想に耽ったり、本を読んだりした。朝寒いので、床の中に入っていたけれど、朝起きの癖がついているので
眤
(
じっ
)
としていられなかった。
渋温泉の秋
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
捕れた男の顔は、土色と変って
眤
(
じっ
)
と
眸
(
め
)
を据えて下を向いている——
此所
(
ここ
)
には文明の手が届いていない。警察の権利が及んでいない。全く暗黒の山奥で、人の知らぬ秘密が演ぜられる。
捕われ人
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
その大広間の
裡
(
うち
)
に一人翁は黒服を身に纏って半白の髭を
生
(
はや
)
し、頭に黒頭巾を被って顔色は青ざめて、幽霊のように
窶
(
やつ
)
れて
眤
(
じっ
)
と教壇に向って
真直
(
まっすぐ
)
に何やら、一定のものを見詰めていた。
点
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
暫
(
しば
)
らく太吉は熱心に気を笛の方に取られていたが、ふと手をやめて窓から外の
空合
(
そらあい
)
を眺めた。ただ白く雲自身が凍っているように、
眤
(
じっ
)
として空は鈍く、
物憂
(
ものう
)
く、日の光りすらなかった。
越後の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
(眼を転じて第二の見慣れぬ旅人を見て)
私等
(
わたしら
)
二人は、
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
歩きましょう、こうやって
眤
(
じっ
)
としているのが堪えられぬ怖しさを覚える。眤としていると沈黙が息を止めるように覚える。
日没の幻影
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
私は黒い柱に
懸
(
かか
)
った、古風の大きな八角時計を見上げた。縁の金色が、
僅
(
わず
)
かに鈍い灰色の空気に光って、
眤
(
じっ
)
と
眸
(
ひとみ
)
を移さずに白い円盤を
見詰
(
みつめ
)
ていると、長い針は
遅々
(
ちち
)
と動いて、五分過ぎた。
不思議な鳥
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
私も別に下りて
行
(
いっ
)
て話しかけたこともない。
偶々
(
たまたま
)
便所に行く時など下へ降ると婆さんは暗いランプの下で
眤
(
じっ
)
と
彼方
(
あちら
)
を向いて黙って坐っている。私も声をかけなければ婆さんも声をかけたことがない。
老婆
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
眤
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御眤懇
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