真俯向まうつむ)” の例文
旧字:眞俯向
ハッと呼吸いきを引く。目口に吹込む粉雪こゆきに、ばッと背を向けて、そのたびに、風と反対の方へ真俯向まうつむけになって防ぐのであります。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
がけ溝端どぶばた真俯向まうつむけになって、生れてはじめて、許されない禁断のこのみを、相馬の名に負う、轡をガリリと頬張る思いで、馬の口にかぶりついた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
異様なる持主は、その鼻を真俯向まうつむけに、長やかなる顔を薄暗がりの中に据え、一道の臭気を放って、いつか土間に立ってかの杖で土をことこととならしていた。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「畜生、しッ……畜生。」とこぶし揮廻ふりまわすのが棄鞭すてむちで、把手ハンドルにしがみついて、さすがの悪垂真俯向まうつむけになって邸町へ敗走に及ぶのを、斑犬ぶちは波を打ってさっと追った。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はっと火のような呼吸いきを吐く、トタンに真俯向まうつむけに突伏つッぷす時、長々と舌を吐いて、犬のように畳をめた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳩の羽より軽かったが、驚くはずみの足踏に、ずんと響いて、どろどろと縁が鳴ると、取縋とりすがった手を、アッと離して、お絹は、板に手をついて、真俯向まうつむけになりました。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その隣座となりざに、どたりと真俯向まうつむけになった、百姓てい親仁おやじは、抜衣紋ぬきえもんの背中に、薬研形やげんがたの穴がある。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真俯向まうつむけに、頬を畳に、足が、空で一つに、ひたりとついて、白鳥が目を眠ったようです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背にかばって立った教授が、見ると、繻子しゅすの黒足袋の鼻緒ずれに破れたやつを、ばたばたと空にねる、治兵衛坊主を真俯向まうつむけに、押伏せて、お光が赤蕪あかかぶのような膝をはだけて
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真黒まっくろな影法師のちぎれちぎれな襤褸ぼろて、茶色の毛のすくすくとおおわれかかる額のあたりに、皺手しわでを合わせて、真俯向まうつむけに此方こなたを拝んだ這身はいみばばは、坂下のやぶ姉様あねさまであった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中に真俯向まうつむけになっていた、きたなばばあが、何とも云いようのない顔を上げて、じろりと見た、その白髪しらがというものが一通りではない、銀の針金のようなのが、すすきを一束刈ったように
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葛木がれて気色ともに激しくなるほど、はあはあと呼吸を内に引いて、大息であえいだが、けものの背の、波打つていに、くなくなとなると、とんと橋の上へ、真俯向まうつむけに突伏つッぷしてしまう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真俯向まうつむけに行く重い風の中を、背後うしろからスッと軽く襲って、すそかしらをどッと可恐おそろしいものが引包むと思うと、ハッとひき息になる時、さっと抜けて、目の前へ真白まっしろおおきな輪の影があらわれます。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、耳もきばもない、毛坊主けぼうず円頂まるあたまを、水へさかさま真俯向まうつむけに成つて、あさ法衣ころものもろはだ脱いだ両手両脇へ、ざぶ/\と水を掛ける。——かか霜夜しもよに、掻乱かきみだす水は、氷の上を稲妻いなずまが走るかと疑はれる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御近習、宮の中へ闖入ちんにゅうし、人妻なればと、いなむを捕えて、手取足取しようとしたれば、舌をんで真俯向まうつむけに倒れて死んだ。その時にな、この獅子頭をじって、あわれ獅子や、名誉の作かな。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪の薄い天窓あたま真俯向まうつむけにして、土瓶やら、茶碗やら、ときかけた風呂敷包、混雑ごったに職員のがちらばったが、その控えた前だけ整然として、硯箱すずりばこ右手めてへ引附け、一冊覚書らしいのをじっながめていたのが
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(足手を硬直かたくし、突伸べ、ぐにゃぐにゃと真俯向まうつむけに草にす。)
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
技師は真俯向まうつむけに、革鞄の紫の袖に伏した。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)