相剋そうこく)” の例文
対立衝突相剋そうこくというのも、作者の主観以外には現象としての本質的な差を認めなくても結果においてたいした差はないようである。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
政治的には佐幕と勤王、学問的には立原(翠軒)派と藤田(幽谷)派、この二派がつねに相剋そうこくし摩擦しつつあるのが水戸の情勢だった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これによりて、男女の相性、嫁娶かしゅ、修造、家相を選ぶも、みな相生そうしょうを吉とし相剋そうこくを凶とす。しばらくも五行を離るることなし。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
露骨に云えば、糞尿汲取を増額しなければ、塵芥搬出の方を減額しろということになるので、そこに相剋そうこくがあったわけである。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
死を越えてなお愛する妻と愛と憎しみとの相剋そうこくの生活を続けてゆくことこそが、私のごとき人間に、定められたる運命というべきであろう。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
同じわだち泥上でいじょうにえがいて、宿業の車輪は、興亡、流転、愛憎、相剋そうこく猜疑さいぎ、また戦争など、くり返しくり返しとどまるところがなかったのです。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛇と、蛞蝓なめくじと、蛙とが相剋そうこくするように、力の問題ではなくて、気合のさせる業。理窟の解釈はつかない宿縁というようなものの催しでしょう。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相剋そうこく、抗争を、国家が独占している公権力を背景にして、強制的に統合し一体化することが、正に政治の本質である。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
四十三年の一年は、その相剋そうこくをつづけて、四十四年の一月、熱海あたみへの三泊旅行も、以前の関係のままで押通した。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いわゆる革新派にも同じような派閥があって、相剋そうこくとも言うべきその争いは、ひとしく錦旗革命を意図している青年将校の間にも分裂をもたらしていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
あるいは理想と現実との相剋そうこく——いつの世にもみらるる現実家の、狂熱的夢想をきずつける策謀を私は想像してもみた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
一口にいえば文明開化と国粋思想の相剋そうこくである。それが将来に如何なる展開を示すものか、その意義を正しく認識し批判し得るものは恐らく稀であったろうと思う。
相剋そうこくの結合は、含羞がんしゅうの華をひらいた。アグリパイナは、みごもった。ブラゼンバートは、この事実を知って大笑した。他意は無かった。ただ、おかしかったのである。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
少くとも明治以前においては、というよりも江戸時代以前においては、漢文学の魔力と相剋そうこくしていた故に、日本語の歌は、短歌という前に先ず和歌であったのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
詩の世界は宏大こうだいであって、あらゆる分野を抱摂する。詩はどんな矛盾をも容れ、どんな相剋そうこくをも包む。生きている人間の胸中から真にほとばしり出る言葉が詩になり得ない事はない。
自分と詩との関係 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
実際、伸子も、毎日相剋そうこくの状態で佃と狭く暮しているよりは、精神に余裕ができた。動坂の家は、暑中休暇で、がら空きであった。多計代は子供づれて、田舎へ避暑していた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
磊々らいらいたる大岩石の堆積、倒木のロウ・ハードル、見上げるような滝となって落ち込む威圧的な支流、コマツ沢の合流点付近では、本支流とも、三つのすさんだ滝となって相剋そうこくしている。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
他の一端では信州北部羽後の雄物おもの川流域などにも、二系相剋そうこくの跡を留めている。
まず着物をはがし、襦袢から着物、帯にいたるまで丹念たんねんに調べて見たが、そこにはなんの不思議もなかった。背中に書いてある『抱茗荷だきみょうがの説』とは、結局相剋そうこくする双生児の伝説に違いない。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
そして情欲の動乱と罪悪の恥辱とにいやしがたい傷を受けた彼は、敗残の身をジュラの山奥にひそめた。愛と憎悪との矛盾相剋そうこくにさいなまれた彼は、苦痛の底から謙虚な心をもって周囲を見回した。
ただ理解しがたい人の世の相剋そうこくぶりが彼には悲しくて恨めしくて、つい尊氏へも、多くをいわず、うつむきがちな姿になっているものだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現代人は相生、調和の美しさはもはや眠けを誘うだけであって、相剋そうこく争闘の爆音のほうが古典的和弦かげんなどよりもはるかに快く聞かれるのであろう。
カメラをさげて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この十干、十二支を年月日に配合して、人の性質を鑑定し、かれは火の性である、これは水の性であるという。これを相生そうしょう相剋そうこくと申すことがある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
狂わんばかりの憤りと嫉妬と愛と憎悪との相剋そうこくえやらずして、かくも奇怪至極なる殺人鬼となり果てし一人の敗残者、今は永遠とこしえの休息を取ると……。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
相剋そうこくの緩和というやつで——どうです、駒井さん、断然あいつを許してしまってやらせたらどうですか、徹底的に
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
政治は社会内の雑多の対立、分化、相剋そうこく、抗争を、権力を背景にして統合し組織化することであるが、それではその政治的対立の要因はどんなものであろうか。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
相剋そうこくやめよ。いまこそ、アウフヘエベンの朝である。信ぜよ、花ひらく時には、たしかに明朗の音を発する。これを仮りに名づけて、われら、「ロマン派の勝利。」という。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
幾多血族の悲しむべき相剋そうこくの後、太子は摂政せっしょうとして立たれた方である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
一日もはやく戦をやめ、ふたたび相剋そうこくの白骨を野にさらすなどなきようにと、天地の神明と朝廷に祈ってあのごさいごをとげられたものだ……。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんでも相生の代わりに相剋そうこく、協和の代わりに争闘で行かなければうそだというように教えられるのであるらしい。その理論がまだ自分にはよくわからない。
「手首」の問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その役目としてわたしが選ばれた上は、できるだけお銀様のお父様の御機嫌もとり、なおできるならば、父と子との間の相剋そうこくの融和の足しにもなって上げたい。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相剋そうこくし、抗争こうそうしているいろいろの意思や、利害や、勢力を統合しなければならないからである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
方位を考えて吉凶を判ずる法を方鑑と名づけ、これに関する書物もたくさんあるが、その判断は多くは五行を方位の上に配合し、相生そうしょう相剋そうこくを考えて吉凶を定むるのじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
国内同族の相剋そうこく頽廃たいはいが致命傷となることは歴史の常識と云ってよい。太子の言葉も切実な体験に発していることは前に述べたとおりである。「以和為貴」とは、国家に対する最大の危険信号であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
蒯良かいりょうも、ぜひなく黙ってしまった。大義と閨門けいもんとはいつも相剋そうこく葛藤かっとうする——。が、今は争ってもいられない場合だった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
セットの各要素がかえって相殺そうさい相剋そうこくして感じがまとまらない。これらの点についても、監督の任にある人は「俳諧はいかい」から学ぶべきはなはだ多くをもつであろう。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つぎに、世間に行わるる五行、支干の占法あり。これ、五行を天地万物に配当して、相生そうしょう相剋そうこくを見て吉凶を判ずるなり。相生とは、水より木を生じ、木より火を生ずるの類をいう。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
鎌倉幕府自体にさえ、種々さまざま弊政へいせいやら、葛藤かっとうやら、同族の相剋そうこくやら、醜いものの発生がかもし出されて、そろそろ自壊作用の芽をふきだしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その芸術の技法には相生相剋そうこくの配合も、テーゼ、アンチテーゼの総合ももちろん暗黙の間に了解されているが、ただそれがなんら哲学的な術語で記述されてはいないのである。
ラジオ・モンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
亡ぶものの末期的症状にかならず見られるのは、宦官的内訌かんがんてきないこうとこれに伴う暴政、相剋そうこく、私的享楽などである。蜀の終り頃もこの例外を出ていない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都市が都市らしくなって来ると必然に、人間がえる、人間の中の種々さまざまな善業悪業が相剋そうこくし合う。制度がる、制度の法網をくぐる方も活溌になる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相剋そうこくし、内争し、相疑えば、かならず曹操に乗ぜられん。——またこのたびの出師すいしにその戦端を陸地くがちから選ぶは不利。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦いまた戦い、業火ごうかと人の相剋そうこくはなおまずといえ、乱れれば乱れるほど、濁れば濁るほど、おたがい人間は、この地上をけもののものと化し去ってはならんのだ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、どこへ行っても、紅白二つの地でない所は尺地もない。熊野も平家勢力と地下源氏の相剋そうこくの外にある仙境などではあり得ませんでした。(二七・六・一)
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戒力横行の遺風が残っているし、座主ざすの位置をめぐって、相剋そうこくの権謀や争い事はやまないと聞いている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一面には直義との相剋そうこくを抱え、それみずからの凡情にみずからをズタズタに切りさいなまれている彼の容子が、道誉にもこの数日はあわれに見られていたほどだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民に慢心放縦ほうじゅうの癖がついた時、これを正そうとして法令をにわかにすれば、弾圧を感じ、苛酷をそしり、上意下意、相もつれてやまず、すなわち相剋そうこくして国はみだれだす。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その追慕とは相剋そうこくする、信孝の処理や、信雄にたいする考えも、こうして先君の位牌に冥々裡めいめいりに、お告げもし、お詫びしておけば、彼の心は信長の生ける言を聞き得たように
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわれむべき弱者をたすけるという形に似た自己の行為のもとに、自己のゆがんだ感情をも、正義化して考えるようになって来ては、もう二人の相剋そうこくは、宿命というほかあるまい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼少から自分の傅人役もりやくとして仕えてくれた右馬介がもしここにいて、この君臣相剋そうこくの乱脈やら父子兄弟の戦いなどを見ていたら、彼は身をおくに所もなく、発狂していたかもしれぬ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)