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瓦屋根
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かはらやね
いつも両側の
汚れた
瓦屋根に
四方の
眺望を
遮られた地面の低い
場末の
横町から、
今突然、橋の上に出て見た四月の
隅田川は
と
言ふが
否や、
靴どのが
被つた
帽子を
引捻つて
取つたと
思ふと、
片側町の
瓦屋根の
上へ、スポンと
投げて
踏切りの
近くには、いづれも
見すぼらしい
藁屋根や
瓦屋根がごみごみと
狹苦しく
建てこんで、
踏切り
番が
振るのであらう、
唯一
旒のうす
白い
旗が
懶げに
暮色を
搖つてゐた。
烈しい夏の日は空から滑り落ちて來るやうな恐しい
瓦屋根の見上げる廣い軒に遮られて參詣の人の絶えず
昇降する階段の、丁度
半ほどまでさし込み
勿論その
外に
石原通りや
法恩寺橋通りにも低い
瓦屋根の商店は
軒を並べてゐたのに違ひない。
おい
邪魔になると
惡いよと
北八を
促し、
道を
開いて、
見晴に
上る。
名にし
負ふ
今戸あたり、
船は
水の
上を
音もせず、
人の
家の
瓦屋根の
間を
行交ふ
樣手に
取るばかり。
水も
青く
天も
青し。
瓦屋根の高く
聳えて
居るのは
古寺であつた。
古寺は
大概荒れ果てゝ、
破れた
塀から
裏手の
乱塔場がすつかり見える。
枯れた
樹木、
乾いた
石垣、
汚れた
瓦屋根、目に
入るものは
尽く
褪せた寒い色をして
居るので、
芝居を出てから一
瞬間とても
消失せない
清心と
十六夜の
華美やかな
姿の
記憶が