片側かたがわ)” の例文
まだ十二時前ではあったが、片側かたがわ町の人家は既に戸を閉め、人通りも電車も杜絶とだえがちになった往来には円タクが馳過かけすぎるばかり。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
上野のおなり街道を横切ってくる小川に添った片側かたがわ町の露地で、野暮にいえば下谷の源助店げんすけだな、丹頂のおくめがひとり暮らしの住居すまいであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとせまみちうえへ、片側かたがわちいさな店先みせさきから、紫色むらさきいろ光線こうせんがもれてきて、あるひとところだけ紫色むらさきいろつちうえいろどっていました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
冷めたい、底意地の悪るそうな高笑いが、小雨の中の片側かたがわ松原から聞こえて来た。小田原の手前一里足らず。文久三年三月の末に近い暮六つ時であった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仲店の片側かたがわ外套がいとうを着た男が一人ひとり、十二三歳の少年と一しょにぶらぶら仲店を歩いている。少年は父親の手を離れ、時々玩具屋おもちゃやの前に立ち止まったりする。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかもいうところの片側かたがわ町であった。反対の側は神田川で、今、銀鱗ぎんりんを立てながら、大川のほうへ流れている。下流に橋が見えていたがそれはどうやら和泉橋いずみばしらしい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
清造はぺこぺこにへったおなかをかかえて、もう目がまわりそうにだるいのをこらえながら歩いてくると、ふと道の片側かたがわに、いろいろなのかかっている店がありました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
障子外の縁を何処までも一直線に突当つきあたって、直角に折れ曲って、また片側かたがわを戻って、廊下通りをまたその縁へ出て一廻り……廻ると云うと円味まるみがあります、ゆきあたり、ぎくり、ぎゅうぎゅう
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっきのしろ帽子ぼうしかむったが、ランドセルのなか筆入ふでいれをらしながら、片側かたがわにあるみせほうかってはしりました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やはり人々ひとびとにもまれながらてら境内けいだいはいると、片側かたがわたか軽業かるわざ小舎こやがあって、昨年さくねんたときのような絵看板えかんばんかっていました。かれは、木戸銭きどせんはらってのぞきました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、あまりきゅうなために調子ちょうしくるって、片側かたがわ店頭てんとうんで、ガラス破壊はかいしたのです。
ねずみの冒険 (新字新仮名) / 小川未明(著)
A町エーまちだよ、ちょっとここでめてもらうんだ。」と、少年しょうねんはいって、自動車じどうしゃめさせて、自分じぶんだけ、くるまからりると、片側かたがわにあった、あかるい、うつくしい、いろいろのかんや
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まちから、むらへつづいている往来おうらい片側かたがわに、一けんちいさなペンキがありました。主人しゅじんというのは、三十二、三のおとこであったが、毎日まいにちなにもせずに、ぶらぶらとおくっていました。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)