無花果いちじゆく)” の例文
殊にナブルスの谷は、清泉処々しよ/\に湧きて、橄欖かんらん無花果いちじゆくあんず、桑、林檎、葡萄、各種野菜など青々と茂り、小川の末にはかはづの音さへ聞こえぬ。
天に近い山の上には氷のやうに澄んだ日の光の中に岩むらのそびえてゐるだけである。しかし深い谷の底には柘榴ざくろ無花果いちじゆくも匂つてゐたであらう。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
豆ラムプの細い燈心には人の眼をたてにしたやうな形の愛らしいほのほがともつてゐて、その薄い光りが窓の前に伸びた無花果いちじゆくと糸杉の葉を柔らかく照し出して居た。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
つぼとかはちとかきまつたかたちのものばかりでありまして、ことにつぼにはしりほうが、つぼんだ無花果いちじゆくのようなかたちをしたものがおほいのです。また模樣もようはたいていありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その急に日向ひなたに出され、人の足に踏まれて顔をしかめたやうな土のひろがりの向ふには、低い築地とその際にたつた一本だけかなりに大きな無花果いちじゆくの樹がぼつさりと茂つてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
裏手はごくまばらな垣根で小川に接して居る許りであるが、そこにはけやき、樫、櫻、無花果いちじゆくなどの樹がこんもりと繁つて居り、低い葡萄棚の下が鷄の小屋になつて、始終鷄の聲がしてゐる。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
否、老いたる無花果いちじゆくの木には、かかる芽は出でぬものなり。されど此世には、この子の親といふもの、われとベネデツトオとの外あらず。いかに貧くなりても、これをば育てむと思ひ侍り。
ところへ! とも二人ふたりつれて、車夫體しやふてい壯佼わかものにでつぷりとえた親仁おやぢの、くちびるがべろ/\として無花果いちじゆくけたるごとき、めじりさがれる、ほゝにくつかむほどあるのをはして、六十ろくじふ有餘いうよおうなたけ拔群ばつくんにして
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
眼路めぢのあなたに生ひ茂げる無花果いちじゆくの森、きさの邦。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ゆだぬるも、はた、——ああ無花果いちじゆく
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
無花果いちじゆくをすすり、ほのぼのと
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
物足ものたるや葡萄ぶだう無花果いちじゆく倉ずまひ
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ヘロデはいつも玉座の上に憂欝な顔をまともにしたまま、橄欖かんらん無花果いちじゆくの中にあるベツレヘムの国を見おろしてゐる。一行の詩さへ残したこともなしに。……
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
急坂を下りて、旅亭のあとあり、側に泉湧く。ガリラヤよりエルサレムに行くユダヤ人の男女、および駱駝ひき、羊かひなど大勢憩ふ。余等も無花果いちじゆくの蔭を求めて、昼食ちうじきす。
然も、私はウラスマルのすぐれた同族サーキヤムニの非常に珍らしい逸話の続きを、もう一度聞きたいと云ふ望みにかられて、再びあの無花果いちじゆくの立つてゐる庭へと足を向けたのである。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
去年の九月にあすこの中庭の土塀のわきで無花果いちじゆくが色づいてゐた、それは今年も同じやうに色づいた。ちがつたのは、今年はうんと実がなつて盛子と二人では喰べきれなかつただけである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
自然の力あまりありて人間のたくみを加へざる處なれば、草といふ草、木といふ木、おのがじし生ひ榮ゆるが中に、蘆薈、無花果いちじゆく、色紅なる「ピユレトルム、インヂクム」などの枝葉えだはさしかはしたる
眼路めぢのあなたに生ひ茂げる無花果いちじゆくの森、きさくに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
無花果いちじゆくをすすり、ほのぼのと
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今日けふはたいまし、——ああ無花果いちじゆく
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
若し他のものを愛したとすれば、彼は大きい無花果いちじゆくのかげに年とつた予言者になつてゐたであらう。平和はその時にはクリストの上にも下つて来たのに相違ない。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つくゑには柑子かうじ無花果いちじゆくなどうづたかく積み上げたり。
無花果いちじゆくの樹も実も無しと。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、彼等は、——サドカイの徒やパリサイの徒は今日でもひそかにこの盗人に賛成してゐる。事実上天国にはひることは彼等には無花果いちじゆく真桑瓜まくはうりの汁をすするほど重大ではない。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さならずば無花果いちじゆく
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼は道ばたの無花果いちじゆくを呪つた。しかもそれは無花果の彼の予期を裏切つて一つも実をつけてゐない為だつた。あらゆるものをいつくしんだ彼もここでは半ばヒステリツクに彼の破壊力をふるつてゐる。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
火の無花果いちじゆくのすががきに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
銀や硝子ガラスの食器類におほはれた幾つかの食卓が、或は肉と松露しようろとの山を盛り上げたり、或はサンドウイツチとアイスクリイムとの塔をそばだてたり、或は又柘榴ざくろ無花果いちじゆくとの三角塔を築いたりしてゐた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
火の哆囉呢とろめん無花果いちじゆくに。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
堀端ほりばた無花果いちじゆくみのり
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)