点綴てんてい)” の例文
旧字:點綴
そして遥か彼方には、明るい家々が深緑ふかみどりの山肌を、その頂からふもとのあたりまで、はだれ雪のように、まだら点綴てんていしているのが望まれた。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
高山植物が青苔のように其間を点綴てんていしている。近く南に聳え立つ岩塊の堆積から成る一隆起は、二千八百九十一米の広河内岳である。
無季の句のうちに神祇じんぎ釈教しゃっきょう、恋、無常、疾病、羈旅きりょ等があって、人間生活を縦横に謡うが、それを点綴てんていして季の句が過半数を占めておる。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
玉川に遊ぶ者は、みち世田が谷村をん。東京城の西、青山街道を行く里余りよ、平岡逶迤いいとして起伏し、碧蕪へきぶ疎林そりんその間を点綴てんていし、鶏犬の声相聞う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ずっと下の方はただ深浅さまざまの緑に染め分けられ、ほんのところどころに何かの黄葉を点綴てんていしているだけである。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
吉野川は山の腰をめぐって、畑や水田の間をうねってゆく、この流れも河原もきれいで、神社の森、小学校の木造建、役場の白い壁などが点綴てんていしている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかれども小説中に料理法を点綴てんていするはその一致せざること懐石料理に牛豚の肉を盛るごとし。厨人ちゅうじんの労苦尋常にえて口にするもの味を感ぜざるべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ちがう。ここで時世の色を点綴てんていさせるのだね。動物園の火事がいい。百匹にちかいお猿がおりの中で焼け死んだ。」
雌に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
丘陵の灌木と灌木の間を点綴てんていしてうねりに沿って、みどり、紫、群青ぐんじょう、玉虫色に光るいらかを並べて、なだらかな大市街が美しい町並を形づくっているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
下手しもての背景は松並木と稲村の点綴てんていでふち取られた山科街道。上手かみてには新らしく掘られた空堀、築きがけの土塀、それを越して檜皮葺ひわだぶきの御影堂の棟が見える。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
きわだってさえた色に紅く染まり、緑の多い中に点綴てんていされるのでまったく目ざましい。やがて村のまわりの山々の上の方から色づいてきて、満山が極彩色となる。
山の秋 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ひろやかな青大空は、一面に小さいまるい濃密な雲の断片で点綴てんていせられている。おどけた形をした雪白の小さな塊が、点々として到るところに浮んでいるのである。
後景ばつくぐらうんどに布き、裏浜および虹の松原は左右の翼のごとく飜り、満島より続きたる城下の市街の白堊はその間を点綴てんていし、澄みわたる大空に頭をもたげ、万斛ばんこくの風を呼吸し
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
これから中部日本を流れる代表的な峡流に点綴てんていされる釣り風景と、鮎の質とを簡単に紹介しよう。
香魚の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
三井、阪本、大津、膳所ぜぜ、瀬田の唐橋からはしと石山寺が、盆景の細工のように鮮かに点綴てんていされている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜は重苦しい悲しみで地上にのしかかっていた。時計の時間の単調な音や、三十分と十五分との粗雑な音が、屋根の雨音に点綴てんていされてる陰鬱いんうつな沈黙の中に、相次いで落ちていた。
長ずる所は精整緻密せいせいちみつ、石をゑがいて一細草いちさいさう点綴てんていを忘れざるかうにあり。句に短なりしは当然ならずや。牛門ぎうもんの秀才鏡花きやうくわ氏の句品くひん遙に師翁しをうの上に出づるも、またこの理に外ならざるのみ。
みずごけの薄緑と、すぎごけの藍白とが地の色をなし、その中にいそつつじの褐色とグイ松の黄がまじり、木フレップの真赤な実が点綴てんていされているこの景色は、全体に夕暮のびを帯びていた。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
時刻は午後の三時である、また熊笹や密林の中を潜ったり蹈み分けたりして行くと、七時に熊笹と樹木が全く絶えた芝生となって、これに点綴てんていしている植物や幾多の小池や残雪やが高山性となって
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
こちらの右の方には大きな宮殿ようの建物があって、玉樹琪花ぎょくじゅきかとでもいいたい美しい樹や花が点綴てんていしてあり、殿下の庭ようのところには朱欄曲〻しゅらんきょくきょくと地をかくして、欄中には奇石もあれば立派な園花えんかもあり
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小岩鏡こいわかがみなどの紅花を点綴てんていしたお花畑を眺めながら、つばくろの小屋場といわれていた山稜上の一地点に達するのである。
幾つかの人家が点綴てんていする! 山と山との間、蓊鬱おううつたる林間には雪を被った高山が雲をまとうてそびえ立ち、なんという大いなる展望であり、荘厳さであったろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
帰路は夕日を背負って走るので武蔵野むさしの特有の雑木林の聚落しゅうらくがその可能な最も美しい色彩で描き出されていた。到る処に穂芒ほすすきが銀燭のごとくともってこの天然の画廊を点綴てんていしていた。
異質触媒作用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この恣な自然の中に小さく点綴てんていされた私達の姿は、惨めなものであったに相違ない。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
殊に巨岩の上にわだかまる偃松と深山偃栢心みやまはいびゃくしんとの間に交って、可憐なる高根薔薇たかねばらの紅花が点綴てんていしている頂上の光景は、忘れ難い印象となって残るであろう。山の鼻の小屋から三時間の登りである。
裾野を点綴てんていする黒い森蔭は、こうした神木を中心に不毛を拓いて、幾世かを安住している村落の所在を示すもので、淡紫に棚曳く炊煙の下に、土蔵などの白壁が朝日夕日に映えて見えるのも
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
上流は針葉樹が多いだけに、黄の勝った華やかな色が其間を点綴てんていしているに過ぎないが、下流の方へ行くに従って闊葉樹が増すと共に赤が加わり、色も濃くなって漸く谷を埋めんとしている。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)