みだ)” の例文
果してしからば国民がみだりに候補者の口車に乗り、地方的事業の画策起工を望むが如きは、財政上の一大矛盾と言わねばならぬ。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
この観念の涵養かんようみだりにくりかえすことによりて目的を果たし得るものでない。これを乱用すればかえって正反対の結果を来たすを恐れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これは筆を執る人の間で唱えたのであるが、世間のものもそれに応じて、みだりに予を諸才子の中に算えるようになって居た。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その聲音こわね尋常よのつねならず、譬へば泉下の人の假に形を現して物言ふが如くなりき。我即興詩はみだりに混沌のあな穿うがちて、少女に宇宙の美を教へき。
が、当時の当路者達は、イエスをもって、みだりに新信仰を鼓吹して旧信教を覆すものとなし、これを磔刑に処したのである!
思うに現今のネパール国王は思慮に深い人でありますから、みだりに実益のない戦いを起さぬであろうと私は察するです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
およそ其半なるをたしかめたり、利根山奥は嶮岨けんそひとの入る能はざりしめ、みだりに其大を想像さう/″\せしも、一行の探検に拠れば存外ぞんぐわいにも其せまきをりたればなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
またかしましく多言たげんするなかれ、みだりに外出するなかれというも、男女共にその程度を過ぐるはむべきことにあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
咄々とつとつ、酔漢みだりに胡乱うろんの言辞を弄して、蹣跚まんさんとして墓に向う。油尽きてとうおのずから滅す。業尽きて何物をかのこす。苦沙弥先生よろしく御茶でも上がれ。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々は偶然の出来事をみだりに行為の原因だとすることがある。若しそんな風な物の考方を僕がするなら、僕は或る女のために死ぬるのだと云ふことが出来るだらう。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
然れども余はさほどに自由を欲せざるになほ革命をとなへ、さほどに幽玄の空想なきにしきりに泰西の音楽を説き、さほどに知識の要求を感ぜざるにみだりに西洋哲学の新論を主張し
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
たとひ美を論じ高を説くも其人にして美を愛し、高を愛するに非んば何ぞ一顧を価せんや。自ら得る所なくしてみだりに人の言を借る、彼れの議論いづくんぞ光焔あり精采あるを得んや。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
モウこの頃はお極りの挨拶などは無造作に出来なかった、お話の相手にゆくのであるけれど、先生の様子を見てからでなければ、みだりに挨拶することははなはだ危険を感じたのである
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
みだりに批評に長ぜりと稱せられたるは、また我詩稿を刪潤さんじゆんせんと欲し、我に一枚づゝ寫して呈せんことを求めたり。
旧をててみだりに新を追う弊とか、偶然に出て来た人間の作のために何主義と云う名を冠して、作そのものを是非この主義を代表するように取り扱った結果
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これでF君がみだりに大言荘語そうごしたのでないと云う事だけはわかった。しかしそれ以外の事は、私のためには総て疑問である。私はこの疑問を徐々に解決しようと思った。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いよ/\利根の水源すゐげん沿ふてさかのぼる、かへりみれば両岸は懸崖絶壁けんがいぜつぺき、加ふるに樹木じゆもく鬱蒼うつさうたり、たとひからふじて之をぐるを得るもみだりに時日をついやすのおそれあり、故にたとひ寒冷かんれいあしこふらすとも
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
しかるにその各民族の自由意思を尊重せずしてみだりに外圧的に統治し、遮二無二その節度に服せしめんとするは、人間に固有する権利を無視し、天理に背くゆえんのものだから
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
其極めて多言なる者は必ず家族親類風波の基なればすみやかに追出す可し、すべて卑しき者を使うには我意に叶わぬことも少なからず、みだりに立腹することなく能く言教えて使う可し
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もししからずして国家の政策上よりみだりに関税を外国品に課し、自国品を保護してこれを以て貿易を妨ぐるに至っては、人類の生存上に大切なる物資の有無相通の道を阻害する事甚しく
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
一行書くすら容易ではない。あれだけ文字を連らねるのは超凡てうぼんの努力を要するわけである。従つて書かなくては済まない、のこさなくては悪いと思ふ事以外には一画といへどみだりに手を動かす余地がない。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なぜその閲歴を為す勇気があって、それを書く勇気がないか。それとも勇気があってあえて為したのではなくて、人に余儀なくせられてみだりに為したのであるか。漫りに為して恥じないのであるか。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)