滅茶苦茶めちゃくちゃ)” の例文
楽隊は滅茶苦茶めちゃくちゃのジャズ音楽を吹き、叩いていた。酔っぱらいの来客達は、或は歌い、或は歓声を上げて、場内を飛び廻っていた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
静子に久し振にえるとったような楽しい平和な期待は、偶然な血腥ちなまぐさい出来事のために、滅茶苦茶めちゃくちゃになってしまったのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
或日家主から植木屋を寄越よこして庭の植木の手入をすると言って、その柳を何の容赦もなく滅茶苦茶めちゃくちゃ枝下えだおろしをしてしまったというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あの永い苦悩の、総決算がこの小さい、寒そうな姿一つだ。すれちがう人、ひとりとして僕の二箇年の、滅茶苦茶めちゃくちゃの努力には気がつくまい。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とにかく博士せんせいと来たら、きょうが乗れば、敵と味方との区別なんかもう滅茶苦茶めちゃくちゃで、科学の力を残酷ざんこくに発揮せられますからなあ。
……このあと、こんな日がもう一箇月も続こうものなら、頭は滅茶苦茶めちゃくちゃになって何もできなくなる、できなくなればますます生活が苦しくなる。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もともと地唄じうたの文句には辻褄つじつまの合わぬところや、語法の滅茶苦茶めちゃくちゃなところが多くて、殊更ことさら意味を晦渋かいじゅうにしたのかと思われるものがたくさんある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
淫猥いんわい滅茶苦茶めちゃくちゃに勘定が高く、白痴のヤミ屋がゆくものと決めていた社交喫茶というものにも、桂子が勤めているときき、二、三度場所をかえ、顔を出してみた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
銃眼じゅうがんのある角を出ると滅茶苦茶めちゃくちゃに書きつづられた、模様だか文字だか分らない中に、正しきかくで、ちいさく「ジェーン」と書いてある。余は覚えずその前に立留まった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
槍傷、太刀傷、滅茶苦茶めちゃくちゃだ。だが痛くはない、なんともない。ボーッ……と心が遠くなるばかりだ。そうして足がヒョロヒョロする。胸が苦しい、呼吸いきが苦しい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
当時漱石は、世間全体が癪にさわってたまらず、そのためにからだを滅茶苦茶めちゃくちゃに破壊してしまった、とみずから言っている。猛烈に癇癪を起こしていたことは事実である。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その手を滅茶苦茶めちゃくちゃに引っ掻いてやった。が、黒い服の仲間はどうしても彼女を放さなかった。そればかりでなく、黒い服の仲間は彼女から赤ん坊まで奪った。完全に奪っていった。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
何処の領主でも兵卒を多く得たいものは然様そういうことを敢てするを忌まなかったから、共婚主義などは随分古臭いことである。滅茶苦茶めちゃくちゃなことの好きなものには実に好い世であった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一切いっさい滅茶苦茶めちゃくちゃ、暗殺はほとんど毎日のごとく、実に恐ろしい世の中になって仕舞しまった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
随分ずいぶんスピードのある車だったが、方向転換その他に手間どった。その上、相手の車が、なりは小さいけれど、滅茶苦茶めちゃくちゃな速力だ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人の間には、絵具のチューブが、滅茶苦茶めちゃくちゃに散っていた。父の足下には、三十号の画布カンバスが、枠に入ったまゝ、ナイフで横に切られていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
僕は滅茶苦茶めちゃくちゃに畑の仕事に精出した。暑い日射ひざしの下で、うんうんうなりながら重いくわを振り廻して畑の土を掘りかえし、そうして甘藷かんしょの蔓を植えつけるのである。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
といっていたずらに吹き飛ばすわけでは無かった。当人は事実をいっているので、事実えらいと思っていたのだ。教員などは滅茶苦茶めちゃくちゃであった。同級生なども滅茶苦茶であった。
正岡子規 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身代しんだい釣合つりあい滅茶苦茶めちゃくちゃにする男も世に多いわ、おまえの、イヤ、あなたのまよい矢張やっぱり人情、そこであなたの合点がてん行様ゆくよう、年の功という眼鏡めがねをかけてよく/\曲者くせものの恋の正体を見届た所を話しまして
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、優級品のもくねじだから安心していたんだ。ところがこんな出来損いのが交っていやがる。見掛けは綺麗なんだけれど、螺旋らせんの切込み方が滅茶苦茶めちゃくちゃだ。どうしてこんなものが出来たのかなあ」
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
やみの中を、滅茶苦茶めちゃくちゃに走った。闇の中を、つぶてのように走った。滅茶苦茶に、走りでもする外、彼のあらしのような心を抑える方法は何もなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
柾木は、胸の中で小さな動物が、滅茶苦茶めちゃくちゃにあばれ廻っている様に感じた。一里も走りつづけた程のどが乾いて、舌が木の様にこわばってしまった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
下男のひとりに滅茶苦茶めちゃくちゃにピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そろっていました)自分はその出鱈目でたらめの曲に合せて
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それらの血の流れの方向が全く滅茶苦茶めちゃくちゃであって、例えば右肩の傷口からのものは、左肩に向って横流おうりゅうし、左腕の傷口からのものは手首に向って下流し
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あきらめようと思い、胸の火をほかへ向けようとして、手当り次第、さすがのあの洋画家もる夜しかめつらをしたくらいひどく、滅茶苦茶めちゃくちゃにいろんな女と遊び狂いました。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼の隣に席をしめた、若い太鼓叩きが、ニヤニヤしながら彼の顔を見た程も、彼は、滅茶苦茶めちゃくちゃにラッパを吹いて見た。「どうにでもなれ」というやけくそな気持ちだった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんないい人が、こんな滅茶苦茶めちゃくちゃな手紙を書くのだから、実際、この世の中には不思議な事があるものだ。マア坊が「意味教えて」と言うのも無理がない。こんな手紙をもらった人は災難だ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二郎は一目その顔を見ると、まるでお化けにでも出会った様に、「ワッ」と、途方とほうもない叫声を立てたかと思うと、いきなりクルッと向きを変えて、滅茶苦茶めちゃくちゃに駈け出した。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と君が滅茶苦茶めちゃくちゃに投げ入れて行ったあの菊の花をほめたのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
祖先伝来の丹塗にぬりの長持ながもちや、紋章もんしょうの様な錠前じょうまえのついたいかめしい箪笥たんすや、虫の食った鎧櫃よろいびつや、不用の書物をつめた本箱や、そのほか様々のがらくた道具を、滅茶苦茶めちゃくちゃに置き並べ積重ねた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と言いながら、滅茶苦茶めちゃくちゃにこぶしで眼をこすった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「どうもよくない様です。熱が高くって、今朝から看護婦が二人来る様になったのですが、何だかどうも、うちの中が滅茶苦茶めちゃくちゃですよ。そこへ、小間使の小松が、昨夜医者へ行くといって出た切り帰らないのです」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
滅茶苦茶めちゃくちゃに取散らされているのを発見したことである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)