)” の例文
旧字:
中にも苦味走つた顔の男は、巡査の人を見るやうな見方をしたと思つたので、八はしやくさはつたが、おくが出て下を向いてしまつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼女の双眼は、叡智えいちのなかに、いたずらを隠して、さかしげにまたたいていた。引きしまった白い顔に、黒すぎるほどの眼だった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
必ず与次郎が持つてて呉れる——と迄は無論彼を信用してゐないのだが、まあどうか工面して見様位の親切はあるだらうと考へてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
このおとろえた女王の巾着きんちゃく切めいた商売は、ふたたびいまいましく興味索然さくぜんたらしめることに、力をつくしたのであった。
仕事の神は嫉妬しっと深く、おまけに君のようにいたずらに富んでいるから、おれはもう一日というところでその神にたたられることをおそれる。
塵埃ほこりたかる時分にゃあ掘出しのある半可通はんかつうが、時代のついてるところが有りがてえなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。白丁はくちょう軽くなったナ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其の代り心底しんそこからこの人と見込んで惚れて仕舞うと、なか/\情合は深い、素人衆の一寸ちょいぼれして水でもさゝれると移りがするのと訳がちがうそうで
、その森の中へおびきよせたかったのかもしれない。そして、ぼくの目の前で、空へ飛んで見せたかったのだろう。じつに、しばいたっぷりなやつだからね。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今のようなことを聞けば、あなたはよけいに、卑怯者といわれたくないと思い、死んでも帰ると仰っしゃるかも知れませんが、そんなはやはやめて下さいませ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俳諧の一つもやる風流はありながら店にすわっていて塩焼くけむりの見ゆるだけにすぐもうけの方に思い付くとはよくよくの事と親類縁者も今では意見する者なく、店は女房まかせ
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
放埒ほうらつな、移りな、想像も及ばぬパッションにのたうち回ってうめき悩むあの大海原おおうなばら——葉子は失われた楽園を慕い望むイヴのように、静かに小さくうねる水のしわを見やりながら
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
馬はむらな主人の仕打を笑ふやうな顔をして、また後退りをした。
しかも、かるはずみなる移りの国
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おや、とんだまわさ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「奥さん。トいう訳だけで、ほかに何があったのでも無いのですから、まわりの苦労はなさらないでいいのですヨ。おめでたいことじゃありませんかネ、ハハハ。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
飯尾隠岐おき、下方左近将監しょうげんなどの老練の将は、藤吉郎の策を若いはやとして、叱るが如く云った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一面において馬鹿正直な彼女は、一面においてまた変なまわを出す癖をっていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と次第を聞くと、丈助がなまぞらをつかってごまかしました。侫弁ねいべんは甘くして蜜の如しというたとえの通りで、誠しやかに遣るのは丈助の得手でございますから、おぼこのおみゑは真実まことの事と思い
ひと枝折れば、むすめ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それをいやが上にもアコギな掘出しで、三円五十銭で乾山けんざんの皿を買おうなんぞという図〻ずうずうしい料簡を腹の底に持っていたとて、何の、乾也けんやだって手に入る訳はありはしない。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
取りあえずそのはや挙動ふるまいとどめておいて、さておおいに踏んんでもこの可憫あわれな児を危い道をませずに人にしてやりたいと思い、その娘のお浪はまたただ何と無く源三を好くのと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)