死出しで)” の例文
今頃は死出しでの山路で峠越しでもやっておらなければならなかったが、幸いなるかな、身に寸毫すんごうの傷だも負わずして、危うき一命を取り止めた。
うまくランデブーすれば、雄蝉おすぜみ莞爾かんじとして死出しで旅路たびじへと急ぎ、あわれにも木から落ちて死骸しがいを地にさらし、ありとなる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
以て明朝きみには御切腹ごせつぷくせがれ忠右衞門も自害致し死出しで三途さんづ露拂つゆはらつかまつるとの事武士の妻が御切腹ごせつぷくの事兼て覺悟かくごには御座候へども君に御別おんわかれ申其上愛子あいし先立さきだたれ何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いたはしや花瀬は、夫の行衛ゆくえ追ひ駆けて、あとより急ぐ死出しでの山、その日の夕暮にみまかりしかば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
地獄の沿道には三途さんずの川、つるぎの山、死出しでの山、おいさか賽河原さいのかわらなどがあり、地獄には叫喚きょうかん地獄、難産地獄、無間むげん地獄、妄語地獄、殺生せっしょう地獄、八万はちまん地獄、お糸地獄、清七地獄等々があって
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
わたしも安堵して、この世を去りねまするに、らに、母は己の愛着のあまり、死出しでの姿にかうるに、この様な、わたしが婚礼の姿をそのまま着せてくれまして、頭の髪も、こんな高田髷たかたまげうて
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
並木も泣きながら、彼もまた八津の目にふれぬようにしまいこんであった大事な色紙をもってきて、つるやっこ風船ふうせんを折って入れた。そんなものをもって、八津は死出しで旅路たびじについたのである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
死出しで」の揷頭かざしと、いついつもあえかの花を編む「いのち」。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「それに、中年の女が自害でもしようという時、あんな恰好かっこうはしていませんよ。人に見られちゃきまりが悪いから、晴着くらいは引っかけて、化粧かなんかして、それから取りかかるのが、死出しでの旅路とやらでしょう」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
死後希望 死出しでの山越えて後にぞ楽まん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
死出しで旅路たびぢをふだらくや
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
お跡をしたふ死出しでの旅。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
死出しで山路やまぢ裾野すそのなる
なし幸ひ雨も小降こぶりになりぬ翌日は天氣になりなんとこゝろせかるゝ十兵衞は死出しで旅路たびぢと知ぬ身の兄長庵に禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さきほどより愁然しゆうぜんかうべれて、丁度ちやうど死出しで旅路たびぢひとおくるかのごとく、しきりになみだながしてる。
死出しで」の挿頭かざしと、いついつもあえかの花を編む「命」。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)