本復ほんぷく)” の例文
近ごろ主人の董承とうじょうはすっかり体も本復ほんぷくして、時おり後閣の春まだ浅いにわに逍遥する姿などを見かけるようになったからである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔隠まかくしに逢った小児こどもが帰った喜びのために、一旦いったん本復ほんぷくをしたのだという人もありますが、私は、その娘の取ってくれた薬草の功徳くどくだと思うです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶯の如きのどありといふ、美しき外國婦人の夜をとほして護り居たるに、醫者は心を勞し給ふな、本復ほんぷく疑なしといひきとぞといふ。我を伴ひ來し男の云はく。
早速近所の医者を呼んで一時の苦痛は療治してもらったがまだなかなか本復ほんぷくせんでこの通りている次第さ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
病氣びやうき本復ほんぷくしてからもなく、宗助そうすけまた廣島ひろしまつて福岡ふくをかかたうつらなければならないとなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その本人の島川は一旦本復ほんぷくして、相変らず奥に勤めていたが、それからふた月ほどの後に再び不快と言い立てて引籠っているうちに、ある夜自分の部屋で首をくくって死んだ。
百物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同村の某が同じような高熱に悩んだとき、真言の僧に祈祷を受け、唵摩耶底連おんまやてれんの札を水にうつしていただいたところ、翌日は熱も落ちて本復ほんぷくしたことを思いだしたのであった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ところが丁度ちやうど玄竹げんちくつてさいはひなことには、多田院別當ただのゐんべつたう英堂和尚えいだうをしやう病氣びやうきになつて、開帳中かいちやうちうのことだから、はや本復ほんぷくさせないとこまるといふので、玄竹げんちくのところへ見舞みまひもとむる別人べつじんた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
関白師実の娘といったのは、仙洞にかしずいている養女で、実は妻のめいである。このきさきは久しい間病気でいられたのに、厨子王の守本尊を借りて拝むと、すぐにぬぐうように本復ほんぷくせられた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
父の開業していた、その浅草医院は、大学の先生の見離した病人が本復ほんぷくしたなどという例も幾つかあって、父は浅草区内で流行医の一人になっていた。そして一つの専門に限局せずに、何でもやった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つかはし候處本復ほんぷく次第しだいに禮すると云て行方も知れず出行候と申ければ役人やくにん住所は何處とも云ざりしかと問ふに道達だうたつ夜中に押込おしこみほどの者共に候へば一かうや所は申さずとこたふるにぞ大概おほかた其者ならんと思へども手きず
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いわし天窓あたま信心しん/″\から、それでも命数めいすうきぬやから本復ほんぷくするから、ほか竹庵ちくあん養仙やうせん木斎もくさいない土地とち相応さうおう繁昌はんじやうした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「充分にお体を癒し、ご本復ほんぷくの上も、姫路へもどって悠々ゆうゆう休養されるがよい」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樣子やうすあつて云ひかはせし、夫の名は申されぬが、わたし故に騷動起り、その場へ立合ひ手疵てきずを負ひ、一旦本復ほんぷくあつたれど、この頃はしきりに痛み、いろ/\介抱盡せどもしるしなく、立寄るかたも旅の空
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「尊い御仏を拝むと、万病が本復ほんぷくする」