たた)” の例文
彼は、警察署に行くと、捕えられて来ていたその男を死ぬ程たたきのめし、自分は程近い地下鉄道に轢かれて命を落してしまったのです。
少年 お姉様! (馳せ行きて扉をたたく)お姉様! (ヨハナーンの呼び声のみ反響す)お姉様よう。……(泣く。泣く声のみ反響す)
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
名刺こそ飛んだ厄運やくうんに際会したものだと思うもなく、主人はこの野郎と吾輩のえりがみをつかんでえいとばかりに椽側えんがわたたきつけた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思ふさまにたたかれてられてその二三日は立居も苦しく、夕ぐれごと父親てておや空車からぐるまを五十軒の茶屋が軒まで運ぶにさへ、三公はどうかしたか
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
少年は奪うように手に取ると、窓際へ寄って、何か走り書きしたと思うと、今度は急にたたきつけるような恰好をした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
お前が分別さええれば妾がすぐにも親方様のところへ行き、どうにかこうにか謝罪あやまり云うて一生懸命精一杯、たれてもたたかれても動くまいほど覚悟をきめ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「なんて君まで婆さんの肩を持った日にゃ、僕はいよいよ主人らしからざる心持に成ってしまわあ」と飲みさしの巻煙草まきたばこを火鉢の灰の中へたたき込む。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大急ぎでたたきつけるような人々をはばかって、擲きつけられるのをこわがって、私の道を曲げ、ひるんではいられません。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あんな奴を生して置くよりたたきころす方が世間のためだ、おいらあ今度のまつりにはどうしても乱暴に仕掛て取かへしを付けようと思ふよ、だから信さん友達がひに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
五六日は身体からだが悪いって癇癪かんしゃくばかり起してネ、おいらをったりたたいたりした代りにゃあ酒買いのお使いはせずにんだが、もうなおったからまた今日きょうっからは毎日だろう。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この邪魔ものの一局部へ頭をたたきつけて、せめてひびでも入らしてやろうと——やらないまでも時々思うのは、早く華厳けごんたきへ行きたいからであった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よくもお祭りのは正太さんにあだをするとて私たちが遊びの邪魔をさせ、罪も無い三ちやんをたたかせて、お前は高見で采配さいはいを振つておいでなされたの、さあ謝罪あやまりなさんすか、何とで御座んす
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そもそも最初におのれめがわが対岸むこうへ廻わりし時にも腹は立ちしが、じっとこらえて争わず、普通大体なみたいていのものならばわが庇蔭かげたる身をもって一つ仕事に手を入るるか、打ちたたいても飽かぬ奴と
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その太鼓は最も無風流な最も殺風景な音を出して、前後を切り捨てた上、中間だけを、自暴やけに夜陰に向ってたたきつけるように、ぶっきら棒な鳴り方をした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無法に住して放逸無慚むざん無理無体に暴れ立て暴れ立て進め進め、神とも戦え仏をもたたけ、道理をやぶって壊りすてなば天下は我らがものなるぞと、叱咜しったするたび土石を飛ばしてうしの刻よりとらの刻
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さのみ珍らしいとは思ひませぬけれど出際でぎはに召物のそろへかたが悪いとて如何いかほど詫びても聞入れがなく、其品それをば脱いでたたきつけて、御自身洋服にめしかへて、ああ、私ぐらゐ不仕合の人間はあるまい
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「生活にですか、ええ、そりゃ困ってるんです。しかし無暗むやみに金をやろうなんていったらたたきつけますよ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はそれまで躊躇ちゅうちょしていた自分の心を、一思ひとおもいに相手の胸へたたき付けようかと考え出しました。私の相手というのはお嬢さんではありません、奥さんの事です。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
バッタの癖に人を驚ろかしやがって、どうするか見ろと、いきなりくくまくらを取って、二三度たたきつけたが、相手が小さ過ぎるから勢よくげつける割に利目ききめがない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やっと云いながら、野だの面へたたきつけた。玉子がぐちゃりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
健三はたたき付けるようにこういって、また書斎へ入った。其所には鉛筆で一面によごされた紙が所々赤く染ったまま机の上で彼を待っていた。彼はすぐ洋筆ペンを取り上げた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある時将棋しょうぎをさしたら卑怯ひきょう待駒まちごまをして、人が困るとうれしそうに冷やかした。あんまり腹が立ったから、手に在った飛車を眉間みけんたたきつけてやった。眉間が割れて少々血が出た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「休むさ。学校なんか」とたたきつけるように云ったのはさかんなものだった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)