じょ)” の例文
このじょと申すのが取りも直さず公徳の出所しゅっしょである。私も人間であるから時には大きな声をして歌などうたって見たくなる事がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうだ、小生意気ではないか、——いいえ、星が流れたんです、隕石いんせきでございます、——と云った、そればかりならばまだしもじょすね。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多くの艱難かんなんを経た後になって、何よりもまず力が必要であると、痛ましい告白をなすにいたったのは、じょすべきことではある。
また今の文学者連中がひとりでよがっているのもその人の道楽としてじょすべきだが将来の小児にその困難を感ぜしめるのは如何いかにも気の毒だね。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
男女にして一度ひとたびこれを犯すときは、既に夫婦の大倫を破り、じょの道を忘れて情を痛ましめたるものにして、敬愛の誠はこの時限りに断絶せざるを得ず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
就中なかんずく性欲に関する動作は、若し刹那せつなに動いて、偶然提供せられた受用をゆるすかしりぞけるかと云うだけが、問題になっているのなら、それはじょすべきである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
クライスラーやコルトーあたりならまだじょすべしとしても、ジャズや流行小唄の歌い手などのいかがわしきものを入れるのは御免を蒙りたいものである。
「不覚」というのは又其次で、これは其働きの当を得ぬもので、不覚の好く無いことは勿論であるが、聞怯じ見崩れをする者よりは少しはじょすべきものである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それに、ルグリ先生が椅子を薦められなんだことは、まあまあじょすべきだ。其許のせいが低いため、先生はきっと、もう腰かけているものと勘違いされたのだよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
可惜あたら、治国愛民の宝剣も、いかにせん持つ人もなき末世まっせとあってはぜひもない。霊あらば剣もじょせ。猪肉売いのこうりの浪人の腰にあるよりは、むしろ池中に葬って——」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはじょだろうかな。自分にされたくないことを人に対して行わない、というのがそれだ。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
帰農ももとより労働の一機会ではあるが、棄てておいてももとの穴へ入っていくと見るのは、じょしがたい無理である。いったんあけ渡した空隙は必ず何ものかが充たしている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし怒る人間は怒を表わさないで憎んでいる人間よりもつねにじょせらるべきである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
ああ神よじょし賜え、なんじは爾の子供をきずつけたり、彼はいたみのゆえに爾に近づくことあたわざりしなり、爾は彼が祈らざる故に彼を捨てざりしなり、な、彼が祈りし時にまさりて爾は彼を恵みたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
古代のごとき人知のいまだ進まざりしときならばじょすべきも、今日のごとき教育も普及し、学問も開け、わが国はいわゆる東洋第一の文明国と、ほかより称せられ、自らも公言する以上は
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その功績に対して当然他の一切をじょしてもよろしかろうと思います。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
世には山師やまし流の医者も多けれどただ金まうけのためとばかりにてその方法の無効無害なるはなほじょすべし、日本人は牛肉を食ふに及ばずなど言ふ牽強附会けんきょうふかいの説をつくりちよつと旧弊家丁髷ちょんまげ連を籠絡ろうらく
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「酒屋はじょすべしですが、女郎屋には僕も賛成出来ません」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まあじょすべきであると考えたであろう。
それにはじょすべき点もある。多くのフランス人自身でさえ、彼以上によくフランスの言葉を理解してはいなかった。
渠はしかくきながら暗中に葬り去られつ。良人を殺せし妻ながら、諸君請うじょせられよ。あえて日光をあびせてもてこの憐むべき貞婦を射殺いころすなかれ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいはこれに反して我が身に一点の醜を包蔵せんか、満天下に無限の醜を放つものあるも、その醜は以て我が醜をきよむるに足らず、またじょするに足らず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自死に毒を用いるのは耻辱ちじょくを受けざる為で、クレオパトラの場合などはまだしもじょすべきだが、自分の利益の為に他を犠牲にして毒を飼う如きは何という卑しいことだろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一益かずますの場合は、その動きのつかなかったことも、じょさなければならなかった点は多い。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああはたして仁なりや、しかも一人のかれが残忍苛酷かこくにして、じょすべき老車夫を懲罰し、あわれむべき母と子を厳責したりし尽瘁じんすいを、讃歎さんたんするもの無きはいかん。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆめゆめあるまじき事にして、徹頭徹尾、じょの一義を忘れず、形体からだこそ二個ふたりに分かれたれども、その実は一身同体と心得て、始めて夫婦の人倫を全うするを得べし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのうえ、彼は滑稽こっけいなことにあまり敏感ではなかった。彼は間もなく、それらの物品や人たちの饒舌な懇篤さにれてしまった。彼らに向かって何をじょしがたいことがあったろう。
巧偸豪奪こうゆごうだつという語は、宋の頃から既に数〻しばしば見える語で、骨董好きの人〻には豪奪ということも自然と起らざるを得ぬことである。マアそれもじょすべきこととすれば恕すべきことである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「無力の民には、そこはじょすべきところもあるが」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
残念ながら分らなかったというならまだもじょすべきであるに、先に将校にしらべられた時も、前刻さっきおれが聞いた時も、いいようもあろうものを、敵情なんざ聞こうとも、見ようとも思わなかったは
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せめて土産みやげに敵情でも探つて来れば、まだ言訳いいわけもあるんだが、刻苦こっくして探つても敵の用心が厳しくつて、残念ながら分らなかつたといふならまだもじょすべきであるに、先に将校にしらべられた時も
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)