怠惰たいだ)” の例文
カチ、カチ、カチ! たえまのない石工いしくのみのひびきが、炎天にもめげず、お城のほうから聞えてくる。町人の怠惰たいだむちうつようだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平穏無事のときに悟空の行きすぎを引き留め、毎日の八戒の怠惰たいだいましめること。それだけではないか。何も積極的な役割がないのだ。
素朴そぼくで不器用なモイ族を怠惰たいだな奴隷として、日本の軍隊ははしく酷使してゐた。——ビールを飲みながら、富岡は植物誌を読み出した。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
いままでの怠惰たいだからすも、それからはせっせと学校へ通うようになったし、おかげで無事に医師の免状をもらうことも出来て、まあどうやら
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
此の説き樣は、只あたり前の看板のみにて、今日の用に益なく、怠惰たいだに落ち易し。早速さつそく手を下すには、よくを離るゝ處第一なり。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
そうして自分じぶん哲人ワイゼかんじている……いや貴方あなたこれはです、哲学てつがくでもなければ、思想しそうでもなし、見解けんかいあえひろいのでもい、怠惰たいだです。自滅じめつです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
が、それも力抜けがして中途でしてしまった。彼は重味のとれた怠惰たいだな気持ちでぼんやり庭の白躑躅しろつつじを眺めていた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たとえていうなら、その人たちは後ろばかりを見ている人たちで、現実を正視することに怠惰たいだであると共に、未来を透察することにも臆病であるのです。
「女らしさ」とは何か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
怠惰たいだの一団が勉強家を脅迫きょうはくして答案の回送を負担せしめる。もし応じなければ鉄拳てっけんが頭にあまくだりする。大抵たいてい学課に勉強な者は腕力が弱くなまけ者は強い。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
怠惰たいだ不注意の罰金 としてチベット銀二十タンガー即ち日本金五円をその盗んだ人に遣らなくてはならない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
外来ヨークシャイヤでも又黒いバアクシャイヤでも豚は決して自分が魯鈍ろどんだとか、怠惰たいだだとかは考えない。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
コーカサス遺族達によって世間は私に怠惰たいだと、大陸的な新浪漫主義を沁みこましてしまった(将軍BARでさえ農民と職工によって占領されてしまったのだ。)
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
殊に彼等の団体へあらたにはひつて来た青年たちは彼の怠惰たいだを非難するのに少しも遠慮を加へなかつた。
或社会主義者 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
怠惰たいだは許されない。閑居は与えられない。一日のうち多く暮すのは家族の住まえる室々へやべや、忘れられず用いらるる食卓の上、忙しき台所の棚。彼らの多くは不断遣いや、勝手道具。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
恋の季節肉欲の季節また平和の季節でもあった。そしてまた怠惰たいだの季節でもあった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
普段は怠惰たいだなくせに、「浴槽の花嫁」の場合にだけ、異様に敏活巧緻びんかつこうちに働くのだから、その点がすでに病的だといえばいえるけれど彼の日常の言動を精査しても、何度専門家が鑑定しても
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
大衆は一般に受動的、消極的、怠惰たいだ的、惰性だせい的な性質を持つもので、通常は生計をはかることで精力を費やし、一定の財産を持って安定した生活ができれば、だいたいはそれで満足している。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
ただ怠惰たいだに日を送り、酒を飲み、賭博とばくをし、負債をこしらえ、他人から補助を仰ぎ、たがいに悪口をし合い、その階級の上下を問わず皆、自分より下位の者にたいして権力を濫用するのであった。
そうして、勇敢にして天真爛漫てんしんらんまん聖天大聖せいてんたいせい孫悟空そんごくうや、怠惰たいだな楽天家、天蓬元帥てんぽうげんすい猪悟能ちょごのうとともに、新しい遍歴へんれきの途に上ることとなった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「あいや、先生。お言葉中にはござりますが、決して、われわれとても、そのような驕慢きょうまん怠惰たいだにのみ日を暮しているわけでは——」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
確かにこの問答が怠惰たいだなるチベット人、蒙昧もうまいなチベット人を鞭撻べんたつして幾分仏教の真理に進ませるので、半開人に似合わず案外論理的思想に富んで居るという事も
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
性質と犯罪の統計には、狡猾こうかつと云うのが四十二人もあり、怠惰たいだと云うのがたった一人しかありません。
私の数ある悪徳の中で、最も顕著の悪徳は、怠惰たいだである。これは、もう、疑いをいれない。よほどのものである。こと、怠惰に関してだけは、私は、ほんものである。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、まこと都合つがふ哲學てつがくです。さうして自分じぶん哲人ワイゼかんじてゐる……いや貴方あなたこれはです、哲學てつがくでもなければ、思想しさうでもなし、見解けんかいあへひろいのでもい、怠惰たいだです。自滅じめつです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
実は怠惰たいだを悪徳としない美風を徳としているのである。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
チベット人は外見は温順おとなしくってよく何もかも考えるですが、一体勉強の嫌いな質でごくごく怠惰たいだな方で、不潔でくらすのも一つは怠惰なところそこから出て来たようにもあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「君はそれを怠惰たいだのいい口実にして、学校をよしちゃったんだな。事大主義というんだよ。大地震でも起って、世界がひっくりかえったら、なんて事ばかり夢想している奴なんだね、君は。」
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
怠惰たいだなご性質かと思えば、朝夕のご規律、武道文学などには、人いちばいご精進しょうじんもなさる。涙もないひややかなお生れさがかと見れば、時には優しい、むしろ情痴なほど、おぼれ遊ばすたちかとも疑われる。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エジプトの都会の貧民窟ひんみんくつ喧噪けんそう怠惰たいだの日々を送っている百万の同胞に向って、モオゼが、エジプト脱出の大理想を、『口重く舌重き』ひどい訥弁とつべんで懸命に説いて廻ってかえって皆に迷惑がられ
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)