おもひ)” の例文
仮令たとへ木匠こだくみの道は小なるにせよ其に一心の誠を委ね生命を懸けて、慾も大概あらましは忘れ卑劣きたなおもひも起さず、唯只鑿をもつては能く穿らんことを思ひ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なんぢやの、おら嬢様ぢやうさまおもひかゝつて煩悩ぼんなうきたのぢやの。うんにや、かくさつしやるな、おらがあかくツても、しろいかくろいかはちやんとえる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こたび尋ねし勝概こそは、始めて我心を滿ち足らしめ、我をして平生夢寐むびする所の仙郷に居るおもひをなさしめしものなれ。
さすがにその人の筆のあとを見ては、今更に憎しとも恋しとも、絶えておもひには懸けざるべしと誓へる彼の心も、睡らるるまでに安かる能はざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたくしは奇異のおもひをなして引見した。幸作さんは松宇の孫で、わたくしに家乗の一端を語つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ひとつは二人とも躰にわるやまいツてゐるからでもあらうが、一つはまた面白おもしろくない家内かない事情じゞやう益々ます/\おもひ助長ぢよてうせしむるやうになツてゐるので、自然しぜん陰欝ゐんうつな、晴々はれ/″\しない
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
不安と恐怖とのおもひを抱き乍ら、丑松も生徒の後に随いて、学校の門を出た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たれもひとしきおごそかおもひたいあふれてむねに滿つるを……
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
げに寧楽ならびとがおもひに耐へて なれ千年ちとせぬるかな
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
愛欲のおもひにうるみ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
我等はをり/\身の戸外に在るを忘れて、大いなる廢屋の内を彷徨さまよおもひをなせり。所々燈を懸けて闇を照すを見る。而して山上は日獨り高かるべき時刻なりしなり。
望むこと足りぬとも、そねみを蒙り羨を惹きて在らんは拙るべし、もとより女の事なれば世に栄えん願ひも左までは深からず、親の御在さねば身を重んずるおもひもやゝ薄し
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
これにいで、彼はそもそも何のゆゑ有りて、肥瘠ひせきも関せざるかの客に対して、かくばかり軽々しく思を費し、又おもひかくるの固執なるや、その謂無いはれなおのれをば、敢て自ら解かんと試みつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かずかずのおもひ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
沢の蛍は天に舞ひ、闇裏やみおもひは世に燃ゆるぞよ、朕は闇に動きて闇に行ひ、闇に笑つて闇にやすらふ下津岩根の常闇とこやみの国の大王おほぎみなり、正法しやうぼふの水有らん限は魔道の波もいつか絶ゆべき
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
われは婦人の黒き瞳を見て、曾て夢中に相逢ひたる如きおもひをなし、深くこれに動されぬ。
生じ易きは魔の縁なり、おもひほしいまゝにすれば直におこり、念を正しうするも猶起らんとす。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)