さか)” の例文
この時根津ねづ茗荷屋みょうがやという旅店りょてんがあった。その主人稲垣清蔵いながきせいぞう鳥羽とば稲垣家の重臣で、きみいさめてむねさかい、のがれて商人となったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一にいはく、やはらぎを以て貴しとし、さかふこと無きをむねと為せ。人皆たむら有り、またさとれる者少し。これを以て、或は君父きみかぞしたがはずして隣里さととなりたがふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そこでさからわずに付いてゆくと、役人はやがてまた、着物をぬぎ、帽子をぬぐという始末で、山へ登る頃にはほとんど赤裸あかはだかになってしまいました。
うでもいわ」と半分はんぶんをつとさからはないやう挨拶あいさつをした。宗助そうすけ折角せつかくれて御米およねたいして、かへつてどくこゝろおこつた。とう/\仕舞しまひまで辛抱しんばうしてすわつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
否、おん身にさかふには似たれど、己れなどはアヌンチヤタを得ば、名譽此上なしとおもへり。されば人もしかならんとおもふなり。そは兎まれ角まれ、アントニオの君、今宵の即興を聞せ給へ。
〔譯〕寛懷かんくわい俗情ぞくじやうさかはざるは、なり。立脚りつきやく俗情にちざるは、かいなり。
先生決して汽船にお乗なさるな。若し旨にさかつて職を免ぜられると云ふことになつたら、野に下つて漢医方の興隆をおはかりなさるが宜しいと云つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然れどもおなじきことなることを別たずして、倶に天皇のみことのりままに、相たすけてさかふること無からむ。し今より以後のちちかひの如くならずば、身命いのちほろび、子孫うみのこ絶えむ。忘れじあやまたじ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しかも彼にとっては苦手の伯母御の意見といい、それにさからってはよくないという十太夫の諫言かんげんもあるので、播磨も渋々納得して、申訳ばかりに二人の女子を置くことになった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうでもいいわ」と半分夫の意にさからわないような挨拶あいさつをした。宗助はせっかく連れて来た御米に対して、かえって気の毒な心が起った。とうとうしまいまで辛抱しんぼうして坐っていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
源吾は天保中津軽信順のぶゆきがいまだ致仕せざる時、側用人を勤めていたが、むねさかってながいとまになった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「そんなことかも知れませんよ」と、半七老人はさからわずにうなずいた。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
登の子四郎右衛門は物奉行ものぶぎょうを勤めているうちに、寛延三年に旨にさかって知行宅地を没収せられた。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小野は丹後国にて祖父今安太郎左衛門いまやすたろざえもんだいに召し出されしものなるが、父田中甚左衛門じんざえもん御旨おんむねさかい、江戸御邸より逐電ちくてんしたる時、御近習ごきんじゅを勤めいたる伝兵衛に、父を尋ね出して参れ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
るべきものがない以上は、古い道徳にらなくてはならない、むかしかえるが即ち醒覚せいかくであると云っている人だから、容貌も道学先生らしく窮屈に出来ていて、それに幾分か世とさかっている
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)