幸先さいさき)” の例文
思案はもう沢山だわ、——とにかく幸先さいさきはいいんだから、さあ早く服を着かえて、一緒にマーシェンカのところへ行きましょうよ。
「僕はほゞ方針をめて、君のところへ相談に来たんだ。折から忠臣蔵を見せて貰ったのは幸先さいさきが好い。もう決心のほぞを固めたよ」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それはそうだ、身の一命すらあしたの先は。しかし今日の幸先さいさきは上首尾でございましたな。時も時、源家重代の白旗が授かるなどは」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪之丞は、東下あずまくだりをしたばかりの、今日、この二人の恩人たちに、会うことが、出来たということが、何となく、幸先さいさきがいいように思われる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「結構、事の血祭りに幕府の間諜いぬを斬れ、伊賀の上野とは幸先さいさきがよい、やい幕府の間諜、表へ出ろ、荒木が三十六番斬りの名所を見せてやる」
「これ、おとうさんに、あげてよ。」と、少年しょうねんはすずめをきよしくんにあたえて、ひとり幸先さいさきのいいのをよろこんで、野原のはらほうをさしてかけました。
すずめを打つ (新字新仮名) / 小川未明(著)
番太の小屋でガラッ八の帰りを待っていた平次、幸先さいさきが悪いと見たか、やおら立上がって、煙草入を腰に落します。
ナルモヴは笑いながら、ヘルマンが長いあいだ守っていた——骨牌を手にしないという誓いを破ったことを祝って、彼のために幸先さいさきのいいように望んだ。
品川のはずれまで魚心堂が見送りに出て、幸先さいさきを祝って四人のうしろから扇子の風を送った……四人旅、悲しく死んだお妙の泪のような日照ひであめれて……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
隣近所に男は頼みに行って見たもののおよそ小豆と名のつくものは、依然、一粒もなかった。ただの小豆ではあったが幸先さいさきを祝うものゆえ、夫の失望は大きかった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
何となく幸先さいさきが悪いような気がし、東京では又ロクでもないことが起るのではないか、二度あることは三度である、と云うような予感がしないではなかったのであるが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「やあ幸先さいさきがいゝぞ。どこもかしこもニュースばかりだ。それ、こゝにも奇談の種がある」
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
二上ふたかみ山の大阪の道から行つても跛や盲に遇うだろう。ただ紀伊きいの道こそは幸先さいさきのよい道であるとうらなつて出ておいでになつた時に、到る處毎に品遲部ほむじべの人民をお定めになりました。
何の変事も起こらず無事にプリューメ街を去ったのは、既に幸先さいさきのいい一歩だった。これからたとい数カ月でも国を去ってロンドンに行くことは、おそらく賢いやり方に違いない。
……めた……名探偵名探偵。何という幸先さいさきのいい発見だろう……これは……。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
伯父にとつては恐らく最後の新しい首途かどでの前に、斯うした不幸が突然起つて、その幸先さいさきくじかれたので、何か不吉な前兆ででもあるかの如く、彼をしてこの新事業の前途を危ぶみ怖れしめた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
幸先さいさきがいい」と私は思った。そして十二時になるとすぐに座を立った。
微笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
幸先さいさき良しと勇みたった経正は、喜び勇んで湖岸の陣所に戻っていった。
ところが、いざ出発という間際に、はなは幸先さいさきの悪い出来事が起った。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とにかく、幸先さいさきはわるくない。私はまた紫の煙草に火をつける。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
幸先さいさきよしだ。兵糧その他、戦利品も莫大な数にのぼろう。かかる大捷たいしょうを博したのも、日頃の鍛錬があればこそ——やはり平常が大事だな」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「五十七八にしても、兎に角、若い頃家で勉強して御出世をなすった長倉さんに仲人をして戴けば、幸先さいさきが好いと申すものでございましょう」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
明日の合戦幸先さいさきよし、上方では初陣ういじん、ここでがんりきの腕を見せて、甲州無宿の腕は、片一方でさえこんなもの、というところを贅六ぜいろくに見せてやる。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
番太の小屋でガラツ八の歸りを待つて居た平次、幸先さいさきが惡いと見たか、やをら立上がつて、煙草入を腰に落します。
テナルディエは幸先さいさきがいいと思っていた。ある日マニョンがその月分の十フランを持ってきた時、彼はふとこんなことを言った、「そろそろ父親から教育もしてもらわなくちゃならん。」
幸先さいさきが悪いとか何とか云うことは問題でないとしても、ボーイや女給たちがあの時のことを覚えていて、ああ又あのお嬢さんが見合いしてはる、と云う風な眼で見られたら不愉快である
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なにしろマア、ここでひさしぶりに茶壺らしい物を拝むとは、幸先さいさきがいい。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この成功を、ノルゲ号の人々は幸先さいさきがよいといつて喜びました。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「今夜は幸先さいさきがいいぞ」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
月は弓張る幸先さいさき
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「すぐ御一見あって——たしかに瀬兵衛よ、と仰せられ、左右の方々を顧みて、幸先さいさきよいぞ、めでたい——といよいよ御機嫌のていにお見うけ申されました」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
結婚式を明後日に控えている折から、見習が社員に進んで俸給が十円上ったのは好い幸先さいさきだった。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「せっかくだが、そいつはよそう、悪銭あくせん身に着かずということになると幸先さいさきがよくねえからな」
このあんばいでは、海も順風、鳴門のなみにも大してもまれることはなかろう、まず、船出の幸先さいさきは上々吉だ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう種類の人間には、幸先さいさきや、辻占つじうらというようなものを、存外細かく神経にかけることがあるもので、七兵衛はそれほどではないが、全く無頓着というわけでもありません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「君、こゝは『叶』って家だね。縁談の打ち合せに『叶』とは幸先さいさきが好い」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、本陣の義元へ見参に入れ、幸先さいさきよき味方の勝利をことほごうとて、これへもたらして来たものだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃美濃と近江との境で、ちょっとこんな地理的遊戯を試みて、行きこし旅の幸先さいさきを祝うということも、ありそうなことで、無からしめるほどの必要もなかったものでしょう。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「好い幸先さいさきですわ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今日は幸先さいさきがいいと思って出て来てみると、現場へ来てはカスの食い通し。こんな日にゃ、出る目も出ねえ、ちぇッ面白くもねえと、がんりきが唾をんでやたらに吐き出しました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上洛陣の門出、幸先さいさきよしと、すでに慢心な致して、兵馬も誇り立ち、戦気も怠ってあろうずと存ぜられまする。——天機は今、不意を衝いて、義元の幕中へ、攻め入らば、お味方の勝ちは必定
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸先さいさきよし」と、勇躍して、さらに次の作戦に向って、満を持していた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いけねえ、草鞋わらじが切れちゃった、幸先さいさきがよくねえや、ちぇッ」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「戦はこれからだ。しかも幸先さいさきはいい」と、士気を鼓舞していた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸先さいさきよしと、黄蓋は、ともづなを解いて、一斉に発動を命令した。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸先さいさきいいぞ、御車をれい」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃあ母上、お供して参ります。いきなり合戦に出会うなどということは、御奉公には幸先さいさきのよいことですが、武運次第では、これがお別れにならないとも限りません。……その折りは、茂助はなかった子と、おあきらめ下さいまして」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「三州入りの、幸先さいさきよいぞ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よしっ、幸先さいさきは上々!」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえすがえす幸先さいさきはよい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)