帷幕いばく)” の例文
とのみで、信玄は次第に無口になって、帷幕いばくの人々との対談でも、伝令の報告を聞くのでも、ただうなずきを以てするようになっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず、壁を抜き床を透かしてまで、僕等の帷幕いばくの内容を知り得る方法がなけりゃならん訳だ。ああ、実に恐ろしいことじゃないか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この時我輩の帷幕いばくには小野君をはじめとして、ややその先輩たる矢野文雄やのふみお君、その他犬養毅いぬかいつよし君、尾崎行雄おざきゆきお君等がおった。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
劇界に身を投じては伊井蓉峰ようほう帷幕いばくに参じたが、今や梨園りえんの名家たる市川左團次と握手して劇壇革新の烽火のろしを挙げた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
両氏共に高潔俊爽の得難き大人物にして帷幕いばくの陰より機に臨み変に応じて順義妥当の優策を授け、また傍に、宮内、佐伯両氏の新英惇徳とんとくの二人物あり
砂子屋 (新字新仮名) / 太宰治(著)
義元兵を制しようと帷幕いばくを掲げた処を例の桑原甚内が見付けてかかったが近習の士の為にさえぎられて斬られた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
牢の中から助けだされた官兵衛は秀吉の帷幕いばくに加はり軍議に献策してゐたが、京から来た使者は先づ官兵衛の門を叩いて本能寺の変をつげ、取次をたのんだ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
秀吉の帷幕いばくに参していたそうで、「中津川の智嚢ちのう」と綽名あだなされたのは、この人物だったということである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
楊公が面会して兵事を談じると、彼は議論縦横、ほとんど常人の及ぶところでないので、楊公は大いにこれを奇として、わが帷幕いばくのうちにとどめて置くことにした。忰は一人の家僕を連れていた。
山峡の疎林のはずれに兵車を並べて囲い、その中に帷幕いばくを連ねた陣営である。夜になると、気温が急に下がった。士卒は乏しい木々を折取っていては暖をとった。十日もいるうちに月はなくなった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
僭帝の帷幕いばく
その頃から風がつのりだして、暗黒の街中は沙塵さじんがひどく舞った。曹仁、曹洪らの首脳は城に入って、帷幕いばくのうちで酒など酌んでいた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どっちにいたしても帷幕いばくの謀将」正雪いよいよ持ち上げる。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「兵卒どもが、飯をかしぐ間に、あやまって火を出したのだろう。帷幕いばくであわてなどすると、すぐ全軍に影響する。さわぐに及ばん」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、光秀はこれを、帷幕いばくに迎えて、左右の者を退しりぞけ、ほんの近側の、二、三名と住持を加えただけで、何か、密議をこらしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここは御大将の帷幕いばくに間近な陣門です。いかなる御方であろうと、また急用であろうと、馬上のまま乗り入れはゆるされませぬ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こんどの戦には、始終玄徳を扶けてきた従来の帷幕いばくのほかに、何者か、新たに彼を助けて、はかりごとを授けていたような形跡はなかったか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉にとって、両の腕ともたのむ二人が帰って長らく堅氷けんぴょうに閉じられていたような帷幕いばくも、ここにわかに、何となくはなやいで来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謀議の室を閉じて、ふたりがこう議しているところへ、ちょうど郭嘉かくかが入ってきた。郭嘉もまた曹操が信頼している帷幕いばくのひとりである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋江はふかく謝して、さて、以前のわが陣地へ帰るやいな、云々しかじかであったと、むなしく戻って来たわけを、帷幕いばくの面々へはなして聞かせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そばには帷幕いばくの人、小幡民部こばたみんぶ木隠龍太郎こがくれりゅうたろう山県蔦之助やまがたつたのすけ巽小文治たつみこぶんじ加賀見忍剣かがみにんけん鞍馬くらま竹童ちくどうみな一ツところにならんでいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輝元の帷幕いばくにも一時はあわただしい動きが見えたが、間もなくきびしい守兵を立てて一切の出入を断ち、ここは反対にひっそりとしてしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
程なく、大物見の者が帰城して、帷幕いばくへ詳細を報告した。それによって、一益の言があやまっていないことがより明瞭になった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の正直な嘆息に、帷幕いばくの人々も何となく意気があがらない態だった。——あまりに正直すぎる大将という者も困りものだ。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半日にわたるその日の戦区視察で、秀吉の作戦構想はほぼ肚がきまったらしく、その夜、帷幕いばくのうちへ、諸陣地の将をあつめて方針を授けた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は遂に戦いの主動性を握って自身奮いった。祁山総攻撃の電命は久しく閉じたる帷幕いばくから物々しく発せられたのである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると黄祖のいうには、——甘寧はもと江上の水賊である。なんで強盗を帷幕いばくに用うべき。飼いおいて猛獣の代りに使っておけば一番よろしい。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
糧米や軍需の数字をあんじ、帷幕いばくの蔭に経営の苦心をするなどはさむらいのいさぎよしとする仕事でないようにみな嫌っていかん。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちかごろでは、南朝朝廷の帷幕いばくにあり、少年天皇の後村上ごむらかみをたすけて、全国的な戦略戦争の再構想に、着々、手を打っているという聞えがある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それと、毛利どのの帷幕いばくには、参謀をうけたまわって、恵瓊えけいという軍僧が出入りしておらるるであろう。安国寺の恵瓊えけいというて」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝えられるところによれば、その際、帷幕いばくの重臣たちが極力それを引き止めたものだといわれている。或いはそうだろう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥刺とりさし姿に身をやつしておいでなさるが、このお方こそ、秀吉公ひでよしこう帷幕いばくの人、福島ふくしまさまのご家臣で、音にきこえた可児才蔵かにさいぞうとおっしゃる勇士だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご遠慮は無用、先生がそう仰っしゃると、あとが困ります。——第三は、道士どうし公孫勝どの、先生の帷幕いばくを助くる副将として、ご着位のほどを」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天王山、山崎などで、彼の名は、羽柴軍のうちでも断然重きをなして来たが、なおまだ帷幕いばくにかくれて計謀けいぼうに参ずるよりは、陣頭の勇将であった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして帷幕いばくの諸将に囲まれた四輪車の上に、孔明は悠々と羽扇うせんをうごかして、異境の鳥や植物の生態などを眺めていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤吉郎と、その軍師竹中半兵衛とが、帷幕いばくうちで、こんな密談を交わしていたことがあってから、数日の後であった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、帷幕いばくへよびつけ、汝は一軍を引率して、剣閣けんかく陝西せんせい甘粛かんしゅくの省界)の道なき山に道を作れと命じ、悲調な語気で
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焦眉しょうびの急をそこに見ながら、袁紹には果断がなかった。帷幕いばくの争いに対しても明快な直裁を下すことができなかった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、頼朝は、彼の遠謀に心では将来をおそれたが、この舅を帷幕いばくに持って、大事へ臨むとすれば、甚だ心強くもあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうつわを用いて、帷幕いばくの一員に加え、股肱ここう驍将ぎょうしょうに列しるなど、信長としては、最大な待遇を与えて来たものである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かにつけ、質子ちしの身であり、若年だし、帷幕いばく錚々そうそうたる武将たちの間では、元康の存在など、余りに小さかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから赤松円心ひとりでなく尊氏帷幕いばくの老将たちも、それの献言はみな尊氏へしていたにちがいなく、それも諸将の心に余裕があった日のことだろう。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日の御決戦、いずれは乱軍、左候さそうらえば、それがし御陣借ごじんがりな申して、必ず、駿河の大輔たゆう殿が帷幕いばくに迫り、鉄漿首おはぐろくびを打ち取って御覧に入れ奉らんの所存。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敗軍を収めて、約二十里の外へ退き、その夜、玄徳は関羽、張飛のふたりと共に、帷幕いばくのうちで軍議をこらした。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして彼が義元の帷幕いばくに参じてから、今川家の国勢は急激に膨脹ぼうちょうした。覇業の階梯かいてい徐々じょじょに踏んで来たのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼の帷幕いばくが狼狽を起したときは、敵か味方か、見分けもつかぬ人影が、右往左往、煙の中を馳け乱れていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帷幕いばくの異論や、行動に迷って、紛々ふんぷんたる声にとりまかれて困惑している主君の顔が——藤吉郎には、こうしている間も眼に見える気がするくらいだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの、伊那丸いなまる留守るすをあずかる帷幕いばくの人々、民部みんぶ蔦之助つたのすけ小文治こぶんじなどが、天嶮てんけんようしてたてこもるとりでの山。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの人々は皆、張角の帷幕いばくに参じたり、厨房ちゅうぼうで働いたり、彼のそば近くしたり、また多くの弟子の中に交じって、弟子となったことを誇ったりした。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの帷幕いばくは、家康から実地教育をうけるたびに、いわゆる徳川譜代をもって固めた、後の基盤きばんを作っていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)