嵐山あらしやま)” の例文
二人はそれぎり大井を閑却かんきゃくして、嵐山あらしやまの桜はまだ早かろうの、瀬戸内せとうちの汽船は面白かろうのと、春めいた旅の話へ乗り換えてしまった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一、梅にうぐいす、柳に風、時鳥ほととぎすに月、名月に雲、名所には富士、嵐山あらしやま、吉野山、これらの趣向の陳腐なるは何人なんぴともこれを知る。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
当日、貞之助たちは新京阪のかつらで乗り替えて嵐山あらしやまの終点で降り、中之島を徒歩で横ぎって渡月橋のほとりに出た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
瑞長の外舅ぐわいきう青木と、程安ていあんの養父たらむとしてんだ嵐山あらしやまとの事は未だ考へない。此年瑞英四十五歳であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
親鸞 祇園ぎおん清水きよみず知恩院ちおんいん嵐山あらしやまの紅葉ももう色づきはじめましょう。なんなら案内をさせてあげますよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
古い都の京では、嵐山あらしやま東山ひがしやまなどを歩いてみたが、以前に遊んだときほどの感興も得られなかった。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「もう遅いでしょう。立つ前にちょっと嵐山あらしやまへ参りましたがその時がちょうど八分通りでした」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たしかに日本の桜花は、風に身を任せて片々と落ちる時これを誇るものであろう。吉野よしの嵐山あらしやまのかおる雪崩なだれの前に立ったことのある人は、だれでもきっとそう感じたであろう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
京都の嵐山あらしやまの前を流れる大堰川おおいがわには、みやびた渡月橋とげつきょうかかっています。その橋の東詰ひがしづめ臨川寺りんせんじという寺があります。夢窓国師むそうこくしが中興の開山で、開山堂に国師の像が安置してあります。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
和尚さんの行った時は、ちょうど四月の休暇のころで、祇園ぎおん嵐山あらしやまの桜はさかりであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
京都に着いて三日目に、高尾たかお槇尾まきのお栂尾とがのおから嵐山あらしやまの秋色を愛ずべく、一同車をつらねて上京の姉の家を出た。堀川ほりかわ西陣にしじんをぬけて、坦々たんたんたる白土の道を西へ走る。丹波から吹いて来る風が寒い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
昨夜はよい月でございましたから、嵯峨さがのお供のできませんでしたことが口惜くちおしくてなりませんで、今朝けさは霧の濃い中をやって参ったのでございます。嵐山あらしやま紅葉もみじはまだ早うございました。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
申すのではありませんが、ここ二十日余りの間に、夜ごと、船見山、嵐山あらしやま赤壁渓せきへきけいの附近、ずいぶんとくまなく捜索いたしましたが、いまだに、ピオの遺蹟というような石碑いしぶみ一つ見当りませぬ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
關東かんとうでは日光につこう鹽原しほばら關西かんさいでは京都きようと嵐山あらしやま高尾たかをなどは有名ゆうめいなものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
するとどやどやと嵐山あらしやま見物の一群が押よせ、さアずっとお通りなはれ、奥は千畳敷や、中銭なかせんはいらんといいながら、その中でも一番厚かましい老婆が私と私の隣との間の甚だ少しの隙間すきまをねらって
嵯峨さが嵐山あらしやま、平安神宮は駄目だめだとしても、せめて御室おむろの花にでも間に合ってくれないか知らん。………そう云えば去年、悦子が猩紅熱しょうこうねつかかったのも今月であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山峡には竹藪たけやぶや杉林の間に白じろと桜の咲いているのも見えた。「このへんは余ほど寒いと見える。」——広子はいつか嵐山あらしやまの桜も散り出したことなどを思い出していた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そのくらいでしょう、嵐山あらしやまは早いですから。それは結構でした。どなたとごいっしょに」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
交野かたの嵐山あらしやまの春を思えばたまらない。さくらの花のなかに車をきしらせた春を思えば。つんだ花を一ぱい車の中にまいて、歌合わせをして遊んだ昔の女たちを思えば。わしはむしろ死を願う。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
嵐山あらしやまというのは」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年の花見に嵐山あらしやまへ行った時にも、秋に大阪歌舞伎座へ鏡獅子かがみじしを見に行った時にも、彼は渡月橋とげつきょうの上だの劇場の廊下だので、こんな工合に、妻が不意に涙を落すのを見
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「来た時に嵐山あらしやまへ連れていっていただいたでしょう。御母おかあさんといっしょに」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
………午後敏子が誘いに来、嵐山らんざん電車の大宮おおみや終点で木村さんと落ち合い、三人で嵐山あらしやまに行く。これは敏子の発議によるのだそうであるが、まことによいことを思いついてくれた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
南禅寺の瓢亭ひょうていで早めに夜食をしたため、これも毎年欠かしたことのない都踊を見物してから帰りに祇園ぎおんの夜桜を見、その晩は麩屋町ふやちょうの旅館に泊って、明くる日嵯峨さがから嵐山あらしやまへ行き
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)