いへ)” の例文
蘭軒のいへの後には仮山つきやまがあつて草木が茂つてゐた。雉はをり/\そこへ来ることがあつたのを、猫が覗つてゐて捕へたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いへは舊く、身もまた舊い。これは岡野知十君が遺稿の中に見つけた言葉であるが、このまゝ今日の自分の上にもあてはまる。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ほるとはぶなの木にて作りたる木鋤こすきにてつちほるごとくして取捨とりすつるを里言りげんに雪を掘といふ、すでに初編にもいへり。かやうにせざれば雪のおもきいへつぶすゆゑなり。
喝采の聲はいへうごかせり。幕下りて後も、アヌンチヤタ、アヌンチヤタと呼ぶ聲止まねば、歌女はおもてを幕の外にあらはして、謝することあまたゝびなりき。
いへ、崖、等々あらゆる取材はこの死者を取扱ふ医師のやうなあまりに切れすぎる執刀に泣いてゐたらう
外には烈風はげしきかぜいかさけびて、樹を鳴し、いへうごかし、砂をき、こいしを飛して、曇れる空ならねど吹揚げらるるほこりおほはれて、一天くらく乱れ、日色につしよくに濁りて、こと物可恐ものおそろしき夕暮の気勢けはひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二室の界の戸は鎖しありたれども、鑰は卸しあらざりき。前房より廊下に出づる口の戸は鎖して鑰を卸し、鍵を内側に插しありき。第四層の廊下の衝当に小部屋あり。いへの前面に向へり。
もう二階からは見えない、浴衣に着換へ、てすりに倚つてると、いへうしろには、峯を負ひ、眼の下には石を載せた板葺家根が、階段のやうに重なつて、空地には唐もろこしを縁に取つた桑畑が見える
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
波の音がいへうごかすばかりに高く高くきこえて来た。
波の音 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
み冬来て豆柿あかるいへの空孟宗藪といつくしく見ゆ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほるとはぶなの木にて作りたる木鋤こすきにてつちほるごとくして取捨とりすつるを里言りげんに雪を掘といふ、すでに初編にもいへり。かやうにせざれば雪のおもきいへつぶすゆゑなり。
われは數畝の葡萄圃を隔てゝ、始て熔巖を望み見たり。數間すけんの高さなる火の海はまがきを掩ひいへを覆ひて漲り來れり。
西洋のいへ甎石せんせきを以て築き起すから、たとひ天災兵燹へいせんけみしても、崩壊して痕跡を留めざるに至ることは無い。それゆゑ碩学鴻儒の故居には往々銅牓どうばうかんしてこれを標する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いへはまた石もて造り、大理石なめいしの白き血潮ちしほ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
○さて氷室ひむろとは厚氷あつきこほりを山蔭などの極陰ごくいんの地中に蔵置おさめおきいへを作りかけて守らす、古哥にもよめる氷室守ひむろもり是なり。
いへは地震の初に受けたりと覺しき許多あまたの創痕を留めて、その形枯髑髏されかうべの如く、窓は空しき眼窼がんさうかと疑はる。
幽霊のいへよりか洩れきたるのろはしの
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
連日れんじつ晴天せいてんも一時にへんじて雪吹となるは雪中の常也。其ちからぬきいへくじく。人家これがためくるしむ事枚挙あげてかぞへがたし。
うしろよりはた泣くは青白きいへ幽霊いうれい
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
○さて氷室ひむろとは厚氷あつきこほりを山蔭などの極陰ごくいんの地中に蔵置おさめおきいへを作りかけて守らす、古哥にもよめる氷室守ひむろもり是なり。
薄青き齒科醫しくわいいへ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
此石その先農夫せんのうふいへうしろの竹林を掃除さうぢして竹の根などるとてかの石一ツを掘得ほりえたり。