屋外そと)” の例文
高瀬は屋外そとまで洋燈ランプを持出して、暗い道を照らして見せたが、やがて家の中へ入って見ると、余計にシーンとした夜の寂寥さびしさが残った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、この限られた區域の内で、毎日一時間は屋外そとで過さねばならなかつた。私たちの着物は、きびしい寒さを防ぐには十分ではなかつた。
「火には捲かれずとも、こんな寒さに、屋外そとをうろうろしていたら、大事な坊やに、風を引かせてしまいます——誰か、早く、さがして来て——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
屋外そとでは、はげしく吹き荒れている風が窓をゆすぶり、しぶきはその窓硝子を騒々しく叩いて、ときどき犬舎いぬごやの方から犬どものウウと唸る声が聞えた。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
夜はしだいにけた。屋外そとを行く散歩者の姿もめっきりまばらとなり、キャバレーの中では酔いのまわった客の吐き出す声がだんだん高くなっていった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まア驚いた!」と今一度言って、「お清様は今日屋外そとの炭をお出しになりや仕ませんね?」といた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ばたばたと屋外そとで——今度はやや間近な窓の下あたり、烈しい跫音あしおとが駈けた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋外そとはよく晴れた、冴えた
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
屋外そとは雨の音、ザアッ。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
北向の屋根の軒先から垂下る氷柱つららは二尺、三尺に及ぶ。身を包んで屋外そとを歩いていると気息いきがかかって外套がいとうえりの白くなるのを見る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが彼は、屋外そとに出てみて、オヤと叫んだ。——岩蔵が今木立の奥にある玄関のところから、庭園の砂利の上をノコノコこっちに歩いてくるのを見た。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
屋外そとは、もう、いつか初冬らしい、木枯じみた、黒く冷たい風が吹きとおしている。立ちつづく、芝居小屋前ののぼりが、ハタハタと、吹かれて鳴るのも、寒む寒むしい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
屋外そとは雨の音、ザアッ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
屋外そとにはあらし……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
屋外そとの方ではにわかかわずの鳴出す声が聞えた。岸本は子供等の顔を眺めながら、旅の空ではほとんど聞かれなかった蛙の声に耳を澄ました。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「丑や、為は、屋外そとへ、うっちゃられたが?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
二人で屋外そとからでも帰って来ると、一番先におせんの足音を聞付けるのはこのマルだった。そして、彼女のすそに纏い着いたものだ。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は屋外そとからいろいろなことを聞いて来る三郎を見るたびに、ちょうど強い雨にでもぬれながら帰って来る自分の子供を見る気がした。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちょうど半蔵も隠宅にある時で心ゆくばかり師匠の読書する声が二階から屋外そとまで聞こえて来ているところへ勝重は訪ねて行った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まだそれでも、斯うして釣に出られるやうな日は好いが、屋外そとへも出られないやうな日と来ては、実に我輩はる事が無くて困る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「すこしけむったくなって来たナア。開けるか」とW君は起上って、細目に小屋の障子を開けた。しばらく屋外そとを眺めて立っていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その時ほど岸本は節子と二人ぎりでのびのびと屋外そとの空気を呼吸したり青空を楽んだりするような位置に自分を見出したことは無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
屋外そとは昼間のように明るい。りんのような光に誘われて、復た三吉は雑木林の方まで歩きに行きたく成った。お俊は叔父に連れられて行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
庭に行って見ると、よごれた雪の上に降りそそぐ音がする。屋外そとへ出て見ると、残った雪が雨のために溶けて、暗い色の土があらわれている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雪は屋外そとに降り積ると見え、時々窓の戸にあたつて、はた/\と物の崩れ落ちる音より外には、しんとして声一つしない、それは沈静ひつそりとした
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ふとわれに返ると、静かな読経どきょうの声が半蔵の耳にはいった。にわかに明るい日の光は、屋外そとにあるすぎの木立ちを通して、社殿に満ちて来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
墓参りより外にめったに屋外そとに出たことのないようなおげんに取っては、その川岸は胸一ぱいに好い空気を呼吸することの出来る場所であり
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
部屋の障子の玻璃ガラスを通して、湿った屋外そとの空気が見られる。何となく正太は向島の方へ心を誘われるような眼付をしていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その一夏の間、静の屋の二階からは澄んだ笛の音が屋外そとまでもれてよく聞こえた。ひとりいる時の半蔵が吹き鳴らした音だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
戸の透間すきまが明るく成った。お雪は台所の方へ行って働いた。裏口を開けて屋外そとへ出てみると、新鮮な朝の空気は彼女に蘇生いきかえるような力を与えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寿平次も正己を連れて屋外そとからもどって来た。二人とも山遊びらしい軽袗かるさんばきだ。兄はお民を見ると、自分の腰につけている軽袗のひもをときながら
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
直樹は中学に入ったばかりの青年で、折取った野の花を提げて、草臥くたぶれたような顔付をしながら屋外そとから帰って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
近所の人達は屋外そとへ出た。互に家の周囲まわりへ水をいた。叔父が跣足はだしで庭へ下りた頃は、お俊も気分が好く成ったと言って、台所の方へ行って働いた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『いや、もう屋外そとは寒いの寒くないのツて、手も何もかじかんで了ふ——今夜のやうに酷烈きびしいことは今歳ことしになつて始めてだ。どうだ、君、是通りだ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
直樹を休ませて置いて、三吉は何処どこへという目的めあてもなく屋外そとへ歩きに行った。お雪の言ったことに対しても、何とか彼は答えなければ成らなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何時いつの間に屋外そとへ飛出して行って、何時の間に帰って来ているかと思われるようなのは、この遊びに夢中な子供だ。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家のものは皆屋外そとへ遊びに出し、門の戸は閉め、錠は掛けて置いて、たったひとりで二階に横に成って見るような、そうした心持には最早もう成れなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丁度その話をして聞かせて居る最中に、尋常たゞならぬ屋外そとの様子で、敵の艦隊が津軽海峡を通過ぎたことを知つた。私は三日ばかり早く函館へ着いて好かつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかしおまんは奉公人の言うことなぞに頓着とんちゃくしないで、ゆっくり若い者を眠らせようとした。そこへおふき婆さんが新夫婦の様子を見に屋外そとからはいって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
塩の握飯むすびをくれとでも言って、今にも屋外そとから帰って来るような気がしますよ——わたしはあの塩の握飯の熱いやつを朴葉ほおばに包んで、よく子供にくれましたからね。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
皿の上のものを欲しさうな顔附をして、側に附いて居られるのもうるさく、すこし追つて見た位で屋外そとへ出て行く様子も無い。私は犬の方へかまはずにナイフを取上げた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
オロシャだ、いやアメリカだ、そんなことを言い合って、また二人で屋外そとへ出て行きましたよ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
沈まり返った屋外そとの方で、高瀬の家のものは誰の声とは一寸見当のつかない呼声を聞きつけた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夕飯に呼び込まれる頃は、家の内は薄暗い。屋外そとから入つて來た弟の方は燈火あかりの下に立つて
その朝から三吉はおげんの側で楽しい暑中休暇を送ろうとして朝飯でも済むとた直ぐ屋外そとへ飛び出して行ったが、この小さな甥の子供心に言ったことはおげんの身にこたえた。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて復たベルの音が講堂の階下したの入口の方で鳴った。屋外そとへ出て休んでいた聴講者等まで階段を登って来た。チャペルの方へ行く講師の一人が捨吉達の見ている前を通った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
文ちやんが屋外そとからお友達でも連れて来ると、何時いつでも斯の通り部屋を散乱ちらかしてしまふ。お栄は仏壇のある袋戸棚の下あたりを掃いて居ると、そこへ叔父さんが二階から下りて来た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
身体の弱かった田辺の姉さんにもめずらしく気分の好い日が続いて屋外そとへでも歩きに行こうという夕方には、それを悦んで連立つおばあさんや静かに歩いて行く姉さんの後にいて
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水車小屋を隔てゝ相生町の通の方には、ザワ/\ザワ/\人の通る足音を聞く。お島が屋外そとから子供を抱いて戻つて来て今日は斯の町からも召集されて行く人のあることを私に告げた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
斯ういふ家庭の空氣でしたから、自然と私の心は屋外そとの方へ向ひました。