小者こもの)” の例文
小者こものの事なので、頼朝は、そうかと、気にもかけない容子で、いつもの朝の如く、りんどうの鞍へまたがって、野へ駒を調らしに出た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平山はきのふあけ七つどきに、小者こもの多助たすけ雇人やとひにん弥助やすけを連れて大阪を立つた。そしてのち十二日目の二月二十九日に、江戸の矢部がやしきに着いた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
辻町の通りを大馬場につき当った右の角で、こちらに倉沢重太夫という納戸なんど奉行の屋敷があり、片方は小者こもの長屋になっていた。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが、いきなり老人に飛びつくと、老人が「済まねえ」と謝罪あやまったという者もあれば、謝罪ったのは飛び出して来た小者こものだという者もある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
漸く佐賀町の河岸まで参ると正体なくなりまして、地びたへ坐って仕舞い動きませんので、小者こものが駈けて来て知らせましたから、わたくしが直ぐに駈付けましたが
嘲り顔に言ったその言葉を引きついで、露払いの弥太一といったあの小者こものまでが、面憎く言い放ちました。
小者こものの末にいたるまで、皆がほんとうのめくらであるように思い込んでいたのでござりますが、御前へ召されておりますときは気が張りつめておりますけれども
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
連れし小者こものの買はんとせしに、これは山城やましろ伏見ふしみにて作りし物にて、当店の看板なればと、迷惑顔めいわくがおせし事ありしが、京より下り来し品も、江戸に多くありけるものと見えたり。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
台所ボーイ、番兵、おやといスイス兵、走り使いの小者こものまでのこらず、つえでさわりました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
又はこっちが他をおどかすときに用いることばで、表向きの呼び名は小者こものというんです。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時、袴野は偶然に貝の死体を小者こものにはこばせながら、その後について言った。
「さあ? 吉田大親分がそこまではやるまいなあ。わたしは、吉田さんも、友田喜造も、直接には関係のない、小者こもの連中の策動と睨んどる。……というても、結局は同じことになるが、……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
中間ちうげん小者こものの間に、大した評判になつて居る娘だつたのです。
更衣ころもがえ小者こものはしたに至るまで
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
小者こものや百姓たちのたむろ、またはどこか幽閉されていそうな牢舎、穀倉、薪小屋までさがしたが、わが子とは限らず、捕虜らしい者は見えなかった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この親爺おやじ一人でお祭りを背負って立つような意気組み。これぞ、以前の小者こものが尋ね惑うているところの先生であります。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山口屋へゆくまえに調べたところ、侍は十二人、あとは中間ちゅうげん小者こものと人足で、荷駄が七頭あり、五頭にはかなり重量のありそうな箱荷が付けてあった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
男子禁制の区域にも、雑色ぞうしき小者こもの仲間ちゅうげんの類は使われているから、先ずそう云う方面から身体検査や身元調べが始められて、追い/\上の方の女中たちにまで及んだ。
その附近に散在しているのは、つるぎ山を見廻る小者こもの小屋や、土佐境とさざかいの関所へ交代してゆく山役人のたまりなどである。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから後の神尾主膳の挙動は気忙しいもので、かおを洗う、着物を着替える、家来を呼ぶ、配下の同心と小人こびととを呼びにやる、女中を叱る、小者こものを罵る。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柵の中を動いていた提灯が停り、そこにある小者こもの用の木戸があいた。甲斐が木戸をはいると、中年の武士が一人、提灯を持って、無言のまま案内に立った。
ヘイライとは、雑色ぞうしき下僕げぼく小者こもの)たちがかぶっている平折ひらおりの粗末な烏帽子えぼしをいうのである。“平礼へいらい”と文字では書く。
例の笠をかぶった小者こものが、先生はどこへ行った、先生がまたいなくなった、とわめき立てながら駈け廻っているから、だれも、かも、驚かされて出て見ない者はない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さよう、猿橋で捕えた小者こものの自白で、そこが本拠だとわかったのだそうです——私は鳥沢の番所まで戻って聞いたのだが、聞きに戻ったために貴女にも会えたわけです」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの晩、あの小者こものめをやっとの思いで手がらにかけたが、今以て善良不良ともに不明なのはあいつだ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
屋敷へ帰ったかれは、小者こもの藤七郎とうしちろうを呼んで信濃への供を命じ、すぐに出陣の支度をととのえた。生きてかえるつもりはない、道は唯一つ、いさぎよく戦場で死ぬだけである。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「む、それはよいな。——だが、待てよ、家康いえやすの領内をこえていかにゃならぬ。腹心の者はみな顔を知られているし、そうかともうして、凡々ぼんぼん小者こものではなんの役にも立つまいのう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで御当人は、優れた御縹緻ごきりょうなんですから恐れ入りますねえ。仲間ちゅうげん小者こものでも、出入りの小間物屋でもなんでも、お気が向けばお話合いになろうというのだから情けないったら。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
翌日、——三カ条の誓紙を、涌谷の伊達安芸あきまで、使者に託して送った。使者は小者こもので、もちろんそれが「誓紙」であることなどは云わず、単純な時候みまいというふうに思わせた。
と、あとには目もくれずに、屋敷やしきのそとへ走りだした。いうまでもなく、呂宋兵衛るそんべえ蚕婆かいこばばあで、さきに、屋敷の小者こもののふりをして、貴人きじんそうをさそいだしていったのは、早足はやあし燕作えんさくであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、取るにも足らぬ小者こもの罵詈悪口ばりあっこうに対して、この意気地ない有様は何事。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水戸出奔のときから生死を誓っている江橋林助を、弟ととなえて、お次の縁故から、検校のやしきへ、小者こものに住み込ませたのは、それから間もなく、はなしも至って早くまとまったものである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
供は登だけでなく、薬籠やくろうを背負った小者こものが一人いた。
鉢巻トハ何ノコトダ、武士ハ武士ラシクスルガイイ、此方こっちハ侍ダカラ中間ちゅうげん小者こものノヨウナコトハ嫌イダト云ッタラ、フトイ奴ダトテ吸物膳ヲ打附ぶっつケタカラ、オレガソバノ刀ヲ取ッテ立上リ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ウム、門まわりの小者こものか。して、なにか変ったことはないか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あたしはかなぶつとくらすのに飽きちゃったのよ、あたしは人間とくらしたかった、あの人は身分こそ小者こものだったけれど、躯には熱い血がかよっていたし、ときには恥も外聞も忘れる、人間らしい人間だったわ」
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこで、いったん、包みかけた荷物はほどいて、これらのお神楽師が薩摩屋敷の大広間で、腕をすぐって踊るから、志のあるほどのものは、小者こもの端女はしために至るまで、来って見よとのことであります。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「左様、夫婦にしては年が違う、兄妹にしては他人行儀なところがある、付人つきびと仲間ちゅうげん小者こものではない、どこの藩中という見当も、ちょっとつきかねる、そうかといって、ただの浪人にしては悠暢ゆうちょうな旅だ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中間ちゅうげん小者こものに劣った了簡りょうけん
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)