實家さと)” の例文
新字:実家
千代松の家は長谷川組で、お安の實家さとは御家人の筆頭であつたから、この縁は不釣合と、人々に評判されてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
富貴ふうきには親類顏しんるゐがほ幾代先いくだいさきの誰樣たれさまなに縁故えんこありとかなしとかねこもらぬしまでが實家さとあしらひのえせ追從つゐしよう
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お父さまはお母さまと一つしよに、Y町のお實家さとに詫びに行らして嫂さまと敏雄とを連れ戻したのです。迚も敏雄とお嫂さまを離すことは出來ません。離すことは慘酷です。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そして無理算段をしては、細君を遠い郷里の實家さとへ金策にたしてやつたのであつた。……
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
大阪へも汽車で行つたし、讚岐の母の實家さとへも船で行つたことがある。まだ汽車なんか不完全な時で、姫路で乘り換へるのに、發車間際になつて切符を賣るんだから大混雜だつた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
實家さとの、母親はゝおやあねなんぞが、かはる/″\いててくれますほかに、ひらきばかりみつめましたのは、人懷ひとなつかしいばかりではないのです……つゞいて二人ふたり三人さんにんまで一時いちどきはひつてれば、きつそれ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふくろ田舍いなか嫁入よめいつたあねところ引取ひきとつてもらひまするし、女房にようぼをつけて實家さともどしたまゝ音信不通いんしんふつうをんなではありしいともなんともおもひはしませぬけれど
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其の頃は京子の實家さとも全盛で、河から河へ廣い地面を貫いた網島の邸に贅澤をしてゐた。たま/\道臣が其の邸へ行つても、出入りの骨董屋こつとうや以上の待遇は受けられなかつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
家も稼業もそつち除けに箸一本もたぬやうに成つたは一昨々年さきをとゝし、お袋は田舍へ嫁入つた姉の處に引取つて貰ひまするし、女房は子をつけて實家さとへ戻したまゝ音信いんしん不通
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山や田地をやしたので、今では村一二の物持ちになつて、家柄なぞといふものの光のだん/\薄くなるとともに、鷹揚おうやうな好人物の主人をつたお安の實家さとが、村に唯一つの瓦葺かはらぶきの大きな家と
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
寧そ賃仕事してもお傍で暮した方が餘つぽど快よう御座いますと言ひ出すに、馬鹿、馬鹿、其樣な事を假にも言ふてはならぬ、嫁に行つた身が實家さとの親の貢をするなどゝ思ひも寄らぬこと
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつ賃仕事ちんしごとしてもおそばくらしたはうつぽどこゝろよう御座ございますとすに、馬鹿ばか馬鹿ばか其樣そのやうことかりにもふてはならぬ、よめつた實家さとおやみつぎをするなどゝおもひもらぬこと
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
物音ものおときゝつけて璧隣かべどなり小學教員せうがくけふいんつま、いそがはしくおもてよりまわて、おかへりになりましたか、御新造ごしんぞ先刻さきほど、三ぎでも御座ござりましたろか、お實家さとからのおむかひとて奇麗きれいくるまえましたに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)