地境じざかい)” の例文
井戸一ツ地境じざかいに挟まりて、わが仮小屋にてそのなかばを、広岡にてその半ばを使いたりし、ふたは二ツに折るるよう、蝶番ちょうつがいもてこしらえたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お隣りとの地境じざかいに一パイに咲いたコスモスまでも、花ビラ一つ動かさずに、淡い空の光りをいろんな方向に反射しておりました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしたちの領分とザセーキン家の領分との地境じざかいを成している垣根が、共同のへいにぶつかっている庭のはずれに、もみの木が一本、ぽつんと立っていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「なんですか、番頭ばんがしらのおことばには、新規に戴いた采地の地境じざかいとか、おさしずを承れと、申されて参りましたが」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
徳田秋声君の家の隣家の二十歳ばかりの青年が、ちょうど徳田家の高窓たかまどの外にあった地境じざかいの大きな柿の樹の下に、下駄げたを脱ぎてたままで行方不明になった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
菖蒲畑の側にある木戸から、地境じざかいにある井戸まで、低い目垣めがき美男葛びなんかずらが冬枯もしないで茂っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
地境じざかいの端から草地になり、その向うに、おどろおどろしいばかりについえ崩れた土塀を廻した古屋敷。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
家が傾いた先生の屋敷の地境じざかいへ持って行って、宮殿を見るような大きな建築が湧き出し、その楼上で朝野の名流だの、絶世の美人だのが豪華を極めるところを、道庵先生が
おれはあの権判事を地境じざかいへ案内した時のことを忘れない。木曾はこんな産馬地うまどこだから、各村とも当歳のこまを取り調べて、親馬から、毛色、持ち主の名前まで書き出せというやり方だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「町内の岩田屋の福次が、地境じざかいのことで三文字屋を怨んでいたそうだ」
チョビ安はやすやすと、地境じざかいに焼け残っている土蔵の横へ駈けつけた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うちの女房かみさんが、たすきをはずしながら、土間にある下駄を穿いて、こちらへ——と前庭を一まわり、地境じざかい茱萸ぐみの樹の赤くぽつぽつ色づいた下を。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いけねえいけねえ。たとえ天下の往来であろうと、てめえだけは通すことはならねえ、その地境じざかいから一寸いっすんでも踏み込んで見やがれ、胴と首の生別れだぞッ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村中が手分けをして探しまわった結果、隣部落と地境じざかいの小山の中腹、土地で神様松というかさの形をした松の樹の下に、青い顔をしてすわっているのを見つけたという。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……それにお支度が又金にかしたもので、若旦那の方から婿入りの形にするために、地境じざかいの畠を潰しまして、見事な離家はなれが一軒建ちました位で、そのほか着物は
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
地境じざかいのほうへ行くと、塀際の鉄棒をはめた飼箱のなかに、二歳くらいの猿の子供が、からだじゅうに乾いた泥や藁屑をこびりつかせ、所在なさそうに立膝で坐っていた。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とはいうものの、地境じざかいになっていた大きな杉並木もなくなったばかりか、そこらの人が根まで掘ってまきにしたというのです。まして軒端のきば颯々さっさつの声を立てた老松を思い浮べますと涙ぐまれます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
宮裏に、この地境じざかいらしい、水が窪み入ったよどみに、朽ちた欄干ぐるみ、池の橋の一部が落込んで、ながれとすれすれに見えて、上へ落椿がたまりました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御所造りの羽目はめに、五しきのペンキを塗ったくったのも? 地境じざかいの松の頭をチョン切ったのも?」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
するとその豆腐の桶のあるうしろが、蜘蛛くもの巣だらけの藤棚で、これを地境じざかいにして壁もかきもない隣家となり小家こいえの、ふちに、膝に手を置いてうずくまっていた、とおばかりも年上らしいおばあさん。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて停車場ステエションへ出ながらると、旅店はたごやの裏がすぐ水田みずたで、となりとの地境じざかい行抜ゆきぬけの処に、花壇があって、牡丹が咲いた。竹の垣もわないが、遊んでいた小児こどもたちも、いたずらはしないと見える。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)