古寺ふるでら)” の例文
石道いしみち土塀どべい古寺ふるでらと墓地と大木の多い街であつた。花の多い街であつた。樹木の葉の色は東京などよりも一層鮮かに濃いやうに見えた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
……狂言きやうげんはまだないが、古寺ふるでら廣室ひろまあめ孤屋ひとつやきりのたそがれを舞臺ぶたいにして、ずらりとなりならんだら、ならんだだけで、おもしろからう。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ばんになりますと、二人はおにの人形をかついで、盗賊とうぞく古寺ふるでらへ行きました。それからさるは人形の中にはいって、一人でのそのそ本堂ほんどうにやってゆきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
古寺ふるでら見たような家に老母と小さいめいとタッタ二人残して出て行くのですから、流石さすが磊落らいらく書生もれには弱りました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「わしは知らぬが、つたうところによれば、父君は天目山てんもくざんにて討死うちじにしたと見せかけて、じつは裂石山れっせきざん古寺ふるでらにのがれて姿をかえ、京都へ落ちられたといううわさ……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄竹げんちく今日けふ奉行役宅ぶぎやうやくたくが、いつもよりはさらしづかで、さびしいのにいた。るとともに、靜寂せいじやくくははつて川中かはなか古寺ふるでら書院しよゐんにでもるやうな心持こゝろもちになつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雲巌寺は開基五百余年の古寺ふるでらで、境内に後嵯峨ごさが天皇の皇子おうじ仏国ふつこく国師こくしの墳墓がある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
古寺ふるでらやほうろく捨てるせりの中
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
古寺ふるでら屋根やねうれしや
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
私は敢て自分一家の趣味ばかりのために、古寺ふるでらと荒れた墓場とその附近なる裏屋の貧しい光景とを喜ぶのではない。
ちょうどみやこの町はずれに、大きな古寺ふるでらがありましたので、甚兵衛はそっと中にはいりこんで様子ようすうかがってみますと、たたみもなにもないようなれはてた本堂ほんどうのなかに、四、五人の男がすわって
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
古寺ふるでらやほうろくすてせりの中
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
かわら屋根の高くそびえているのは古寺ふるでらであった。古寺は大概荒れ果てて、破れた塀から裏手の乱塔場らんとうばがすっかり見える。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
瓦屋根かはらやねの高くそびえてるのは古寺ふるでらであつた。古寺ふるでら大概たいがい荒れ果てゝ、やぶれたへいから裏手うらて乱塔場らんたふばがすつかり見える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふと小石川の事を思出して、午後ひるすぎに一人幾年間見なかった伝通院をたずねた事があった。近所の町は見違えるほど変っていたが古寺ふるでら境内けいだいばかりは昔のままに残されていた。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二十年前亡友A氏と共にしばしばこのあたりの古寺ふるでらを訪うた頃の事やら、それよりまた更に十年のむかし噺家はなしかの弟子となって、このあたりの寄席よせ常盤亭ときわてい高座こうざに上った時の事などを
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
森よ、なんじ古寺ふるでらごとくにわれを恐れしむ。