凝然じつ)” の例文
藤田は立止つて凝然じつ此方こつちを見てゐる樣だつたが、下げてゐた手拭を上げたと思ふ間に、道路は少し曲つて、並木の松に隱れた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
勘次かんじにはかそびやかすやうにして木陰こかげやみた。かれ其處そこにおつぎの浴衣姿ゆかたすがた凝然じつとしてるのをむしろからはなれることはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ゆめらすやうな、朦朧まうろうとした、車室しやしつゆかに、あかち、さつあをふさつて、湯気ゆげをふいて、ひら/\とえるのを凝然じつると、うも
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まづぼくきだしさうなかほをして凝然じつ洋燈ランプかさつめてたと想像さう/″\たまへ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
藤田は立止つて凝然じつ此方こつちを見てゐる様だつたが、下げてゐた手拭を上げたと思ふ間に、道路みちは少し曲つて、並木の松に隠れた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
耳敏い爺さんは凝然じつと枕をそばたてました。これまで數次かうして惡戲好な村落の若者の爲にぢらされたためしがありましたからか、爺さんはもう非常な怒氣を含みました。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
えりをあとへ、常夏とこなつゆびすこいて、きやしやな撫肩なでがたをやゝなゝめつたとおもふと、衣絵きぬゑさんのかほは、まつげく、凝然じつながら片手かたてほゝ打招うちまねく。……しなふ、しろ指先ゆびさきから、つきのやうなかげながれた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
竹山が唯一人、凝然じつと椅子に凭れて新聞を読んで居る。一分、二分、……五分! 何といふ長い時間だらう。何といふ恐ろしい沈黙だらう。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
渠は腰かけても見た、立つても見た、新聞を取つても見た、火箸で暖炉の中を掻廻しても見た。窓際に行つても見た。竹山は凝然じつと新聞を読んで居る。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
菊池君は矢張、唯一人自分の世界に居て、胡坐をかいた膝頭を、両手で攫んで、凝然じつとして居る人だ。……………
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
肇さんは起き上ツて、凝然じつと其友の後姿を見送ツて居たが、浪の音と磯の香に犇々ひしひしと身を包まれて、寂しい様な、自由になツた様な、何とも云へぬ気持になツて、いひ知らず涙ぐんだ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ト、一日手を離さぬので筆が仇敵かたきの様になつてるから、手紙一本書く気もしなければ、ほんなど見ようとも思はぬ。凝然じつとして洋燈ランプの火を見つめて居ると、断々きれぎれな事が雑然ごつちやになつて心を掠める。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)