其筈そのはず)” の例文
其筈そのはずで、後に聞くと亜米利加アメリカ人だったが、私の額に手をあてたり、脈膊を数えたりして、やがて角砂糖にコンニャックをそそいで、口に含ませてくれた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
はてな、聞いたやうな声だと思つて、考へて見ると、其筈そのはずさ——僕の阿爺おやぢの声なんだもの。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それも其筈そのはずむかしをくれば系圖けいづまきのことながけれど、徳川とくがはながすゑつかたなみまだたぬ江戸時代えどじだいに、御用ごようそば取次とりつぎ長銘ながめいうつて、せきを八まん上坐じやうざめし青柳右京あをやぎうきやう三世さんぜまご
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先生のみか世人よのひとおどろかすもやすかるべしと、門外もんぐわい躊躇ちうちよしてつひにらず、みちひきかへて百花園くわゑんへとおもむきぬ、しん梅屋敷うめやしき花園くわゑんは梅のさかりなり、御大祭日ごたいさいびなれば群集ぐんしふ其筈そのはずことながら
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
それ其筈そのはず一方のは横綱用の刷毛、一方はお客に使ふ素人用の刷毛だ。膚の触り具合から考へてこの硬い/\刷毛を平気で受ける大錦君の皮膚は少くとも馬より丈夫で無ければならない。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
聞けばた戦争とか始まるさうで、わしの村からも三四人急に召し上げられましたが、兵隊に取られるものに限つて、貧乏人で御座りますよ、成程其筈そのはずで、年中働いて居るので身体からだが丈夫
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
知つて居る樣子何れわけのあることならんと云ふ半四郎はきゝて夫は其筈そのはずなり某し先年國へ歸る時東海道戸塚とつか燒餠坂やきもちざかより彼奴きやつ道連みちづれになりし處其夜三島の宿へ泊りしに拙者の寢息ねいきを考へ胴卷どうまきの金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
叔母が斯様こんな昔の心地こゝろもちに帰つたは近頃無いことで——それも其筈そのはず、姫子沢の百姓とは違つて気恥しい珍客——しかも突然だしぬけに——昔者の叔母は、だから、自分で茶を汲む手の慄へに心付いた程。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
取次とりつはゝことばたず儀右衞門ぎゑもん冷笑あざわらつてかんともせずさりとは口賢くちがしこくさま/″\のことがいへたものかな父親てゝおや薫陶しこまれては其筈そのはずことながらもう其手そのてりはせぬぞよ餘計よけいくち風引かぜひかさんよりはや歸宅きたくくさるゝがさゝうなものまことおもひてくものは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)