八十やそ)” の例文
今一葉には「八十やそになりけるとしのはじめに」と端書して「今朝ぞ見る八十のちまたの門の松」と書し、下に「壽松」と署してある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
即ち、一首の声調が如何にもごつごつしていて、「もののふの八十やそうぢがはの網代木あじろぎに」というような伸々のびのびした調子には行かない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
八十やそみなとといふのは、ひょっとすると、土地とち名前なまへで、いま野洲川やすかは川口かはぐちをいつたのかもれません。さうすると、うた意味いみが、しぜんかはつてます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
代々伊予松山藩の士で、父を内藤房之進同人ともざねといった。同人とは妙な名であるが、これは易の卦から取ったのである。母は八十やそといった。私は長男で助之進といった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
よぶ たらちねの 母のみことか ももらず 八十やそちまたに 夕占ゆふげにも うらにもぞ問ふ 死ぬべき我がゆゑ
伊勢物語など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
かれこの大國主の神の兄弟はらから八十やそましき。然れどもみな國は大國主の神にりまつりき。
遊びに来た若い文学少女が「私、八十やそさんが好きですわ」といったのを、部屋の隅で足の底の皮をむきながら、「お前、この辺は門徒じゃねえのか」と、これは洒落でも何でもなく
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
島は、うき島、八十やそ島。浜は、長浜ながはま。浦は、おうの浦、和歌の浦。寺は、壺坂、笠置、法輪。森は、しのびの森、仮寝うたたねの森、立聞たちぎきの森。関は、なこそ、白川。古典ではないが、着物の名称など。
古典竜頭蛇尾 (新字新仮名) / 太宰治(著)
五五ぬば玉の夜中よなかかたにやどる月は、五六鏡の山の峯にみて、五七八十やそみなと八十隈やそくまもなくておもしろ。五八沖津嶋山、五九竹生嶋ちくぶしま、波に六〇うつろふ六一あけかきこそおどろかるれ。
わが父は八十やそちかきをぢ、國いでてすでに二十はたとせ、この頃は夢に立ちと、き友の夜ごと寄りと、樂しよとひと夜もおちず、よく寢むとふすまかつぎて、今宵はもの誰か來む、早や待つと
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ところで、十月のなかばごろまでには、後れて上方を発足した原総右衛門、小野寺十内、間喜兵衛なぞの領袖株りょうしゅうかぶ老人連も、岡島八十やそ衛門えもん、貝賀弥左衛門なぞといっしょに、前後して、江戸へ着いた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
うまざけをくむたかどのゆみはるかすひろらなる海八十やその島々
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
もののふの八十やそ宇治川うじがわの秋の水
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
八十やそ水門みなとはへだつれど
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
其一には「七十九のとしのくれに」と端書して「あすはみむ八十やそのちまたのかどの松」と書し、下に一の壽字が署してある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「もののふの八十やそをとめ等がみまがふ寺井てらゐのうへの堅香子かたかごの花」、巻十九(四一九三)に、「ほととぎす鳴く羽触はぶりにも散りにけり盛過ぐらし藤浪の花」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
わが父は八十やそちかきをぢ、国いでてすでに二十はたとせ、この頃は夢に立ちと、き友の夜ごと寄りと、楽しよとひと夜もおちず、よく寝むとふすまかつぎて、今宵はもの誰か来む、早や待つと
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いそのさきけば、あふみのうみ 八十やそのみなとにたづさはに
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「磯の埼ぎたみゆけば近江あふみ八十やそみなとたづさはに鳴く」(巻三・二七三)、「吾が船は比良ひらの湊に榜ぎてむ沖へなさかりさふけにけり」(同・二七四)がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
なほこの人の作に「武運長久」といふ題にて、『治まれる世にも忘れぬもののふの八十やそちまたのながくひさしも』『八幡山やはたやま雲のはたても豐かにてとほくさかゆくもののふの道』
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)