ひとへ)” の例文
ひとへにこの君を奉じて孤忠こちゆうを全うし、美と富との勝負を唯一戦に決して、紳士の憎きつらの皮を引剥ひきむかん、と手薬煉てぐすね引いて待ちかけたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かけたりける因て久兵衞は逃損にげそんじたりと思ひながらものがるゝだけは云拔いひぬけんと何卒御免おゆるし下されよ私しは決して怪しき者に候はずひとへ御勘辨ごかんべん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何ぞてしひりいないるを取り自ら己が身を打つて懺悔礼拝ざんげらいはいせざる。何ぞさんた、くるすをひて、ひとへにおらつしよを唱へざる。波羅葦増雲近づけり。祈りを上げよ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
尤も御協賛を要し候も、結局老生の精神は毫も変ずる事なく、只管ひたすら歳費を辞するの外他意なき次第に御座候。事態切迫専断実行の場合御高察の程ひとへに御願申上候、云々
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
南無成田山不動明王なむなりたさんふどうみやうわう、とひとへとなへて、あなたがた御運長久ごうんちやうきう無事ぶじそくさい、またわかぢやうたちの
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
に人生の悲しみは頑是ぐわんぜなき愛児を手離すより悲しきはなきものを、それをすらひて堪へねばならぬとは、是れもひとへに秘密をちぎりし罪悪の罰ならんと、吾れと心を取りなほして
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
詔使到来を待つのころほひ、常陸介ひたちのすけ藤原維幾朝臣あそんの息男為憲、ひとへに公威を仮りて、ただ寃枉ゑんわうを好む。こゝに将門の従兵藤原玄明の愁訴により、将門其事を聞かんが為に彼国に発向せり。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
祇園精舎ぎをんしやうじやの鐘の声、諸行しよぎやう無常の響あり。娑羅しやら双樹の花の色、盛者じやうしや必衰のことわりをあらはす。おごれる人も久しからず。たゞ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂には亡びぬ。ひとへに風の前のちりにおなじ。
「北條氏を討滅し、今日京都に還幸出来るのは、ひとへに汝の忠節による」
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
此段ひとへに奉願候。二月日。多紀永春院。津軽良春院。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これはひとへに識者の高教を待つ。
これはひとへに識者の高教を待つ。
北越雪譜:01 第三刷序文 (新字旧仮名) / 岡田武松(著)
ひとへに大御代の為めなり。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ひとへに御頼み申なりと言ければすけ十郎は合點うなづき何樣なにさま御尤も至極なれば早々郷右衞門お島ともに申合せ取計ふべけれども御兄弟を救ひ出せし上御二方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼はつとに起信して、この尊をば一身一家いつけ守護神まもりがみと敬ひ奉り、事と有れば祈念をこらしてひとへに頼み聞ゆるにぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
只だひとへに主義の為めに御尽くしなさるのを知りましたものですから、私は心中に理想の良人と奉仕かしづいて、此身は最早もはや彼人の前に献げましたと云ふことをたしかに神様に誓つたのですよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
下し置れける是ひとへ住持ぢうぢ祐然いうねん發明はつめい頓才とんさいの一言に依て末代まつだい寺號じがうかゞやかせり且又見知人として出府せし甚左衞門善助の兩人へは越前守より目録もくろく其外の品々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むなしく利欲にふけりて志をうしなひ、ひとへに迷執にもてあそばれて思をつからす、ああ、彼はつひに何をか成さんとすらん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)